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「で、その俺達意外の"勇者"はどこに居るんだ?」
「う゛ッ……!」
「おいおい、探すっつってた本人が知らねえのかよ」


現在、未だにキサゴナ遺跡前。呆れたように鼻で笑うアレフに何も言葉を返せない自分。
そういえばセレシア様達、勇者が今この世界に何人いるとか集う仲間の数とかひとっつも教えてくれなかったな!「気がつくのが遅い」あっサンディ傷に塩塗って楽しんでません?イジメ駄目絶対!とりあえず、アレフがTの勇者でアレンはUの勇者。そしてここで鍵になってくるのがムーンと、二人がこの世界ではぐれてしまったサマル。サマルは十中八九、サマルトリアの王子だろう。つまり仲間キャラクターも来ている。……ということは、主人公達だけが集うのでは足りないということ。それぞれの個々のパーティ能力を全て結集させて挑まないと勝てないであろう相手だということが読めてくる。しかも世界を平和にした後の能力では足りないということ。そして今、ここで勇者を探す私はこの世界においてイレギュラーのようなものなのだろう。使いこなせる気はしないが能力はチート(多分)(……多分)(……た、ぶん?)だし…?スライムすら倒せないイレギュラーって存在する価値あるの?


「ど、どうした!?何でいきなり泣くんだよナマエ!?」
「自分が恐ろしくちっぽけで……」
「よくわからんがとりあえず落ち着――チッ」
「させません触れさせません。ナマエ様が汚れます」


アレンに心配され顔を覗き込まれ、ついでにアレフの腕も伸びてきた。再び腕の中に閉じ込められて恥ずかしい思いをするのかと思えば何故か凄い言葉でナイン君がアレフの手をばしりと払う。ちなみにナイン君は私の隣をがっちりキープ中。もう突っ込む気力もないので頭の上で足を組んでいたサンディに目を向けると、目を逸られた。再び溜め息を吐こうとしたところで自分の髪の毛が小さく揺れる。サンディがなんというか、慰めてくれているらしかった。思わず頬をつねるとそれを見ていたサンディに思いっきり頭をヒールで蹴られてしまう。デレとは一瞬だな……


**


とりあえず、覚えている勇者とその仲間達の特徴を全てアレフ達(ナイン君とサンディ含む)に私が聞かせる事になった。こことは違う世界で、全員の顔と名前を一致させられるのは私だけなのでしょうがないと思う。しかし問題なのはどこまで説明するか、で……アレフとアレン、それにナイン君がいるから歴代ナンバリングのキャラは説明するとして、スピンオフ作品のキャラクターは含まれているのかが気になってくる。漫画とかまで全部、となってくると流石に数が多すぎる気がしてならない。一応歴代主人公の特徴を地面に絵を書きつつ説明することになったのだが、


「……………色々すげえ」
「う、うるさい!」
「絵心があるのかないのか分からねえ」
「とりあえず絵があると集中出来ないので、口だけで結構です……」


アレンとアレフが首をかしげるのは当然だ。絵心なんて持ってないんだよ!木の棒でがりがりと地面に描いた歴代主人公達の顔は、アレフとアレンの物を含み悲惨なものになっていた。無駄にリアルなくせにバランスがおかしい。口での説明の方が分かり易いとナイン君まで言うレベルである。じゃあ何故私に似顔絵を書けと言ったのだ!……と言いたいが我慢する事にしよう。争ってても何も進まない!


「えっと、とりあえずはロトの勇者。茶髪で髪の毛はツンツンに跳ねてて、頭には勇者の証みたいな……こんなのを抱いてるはず」
「何でお前武器とか装備品とか描くのはやたらと上手いんだよ」
「人間じゃなければどんと来い!」


そこ胸張るところじゃねえから、とアレンに冷静なツッコミを入れられる。「何それ複雑…」いまボソッと言ったのはサンディだな!?というか、何故ムーンは喋らないのだろうか。消さずに残しておいた勇者の似顔絵のうちの一つをじーっと見つめたまま動かない彼女に少し疑問を抱く。が、それはアレンに遮られた。


「他の勇者は?」
「えーと、天空人と人間のハーフの勇者なんだけど……緑色の髪に…こんな兜の……」
「ナマエ、待って!それもう少し詳しく聞かせて!?―――この人よね?」


唐突に腕を引かれ、自分の書いた下手な似顔絵の中からWの勇者を指さされる。その指はムーンのもので、彼女の目は真剣だ。迫力に圧されてこくりと頷くと、「ッ…!」ムーンが小さく息を呑む。どうしたというのだろうか?


「ね、ムーン……どうし、」
「見たのよ」
「―――へ?」


「アレンも見たでしょう?この世界に来た時、私達が目を開けたのはこの遺跡の前だった。……覚えていない?
「ッ、もしかして!」


「――――この崩れやすそうで危険な遺跡に、たった一人で入っていった?」



想像は容易な事である

(多分、見知らぬ場所で仲間を探そうとした彼は)
(好奇心豊かなお姫様や、その従者がここにいるかもしれないと)
(―――そう、思ったんじゃなかろうか)

(2013/04/29)