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「本当に心配したのですよ!?血を流しながら流れていくのですから!浮かび上がっても来ないし村の人達には無理矢理『第二波が来るかもしれないから』って取り押さえられますし!手遅れになったらどうしようかと…!ああ、本当に良かった」
「とりあえずナイン君離れよう?その、恥ずかしいから!あと羽!目立つ!」


セリフの後半は後ろの三人に聞こえない声に抑えて必死にナイン君を引き離そうとするけれど、半泣きのナイン君は私を抱きしめたまま離してくれない。天使としての使命感があったからだろうか。私がここで死んだらナイン君はセレシア様に顔向け出来ないだろうし……。取り押さえられて喚くナイン君が何故だか容易に想像出来てしまった自分に少し引いてしまう。自分で自分に引くってどうなんだろう。ちらりと助けを求めてサンディを見るとふいっと顔を逸らされた。あっ地味に傷つく、かと思いきや。


「べ、別に心配なんてしてなかったし?」
「心配してくれてたんだ…!」
「な、何嬉しそうにしちゃってんのォ!?ウザいんですけど!」
「顔赤いから説得力無ェなこの妖精」


アレフが言うと「うんうん」とムーンが頷いてアレンも薄く笑う。サンディのツンデレが確定した瞬間だった。――ってあれ?


「……サンディが見えるの?」
「今更何言ってんだよ、そのナインとやらの羽と光輪も見えてんぞ」


アレンさん、それ早く言ってくださいます?


**


「……まあ、そんなわけで右からアレフとアレンとムーン。こっちがナイン君とサンディだよ」


サンディはどうやらまだ機嫌が悪いようで、ふん!と顔を逸らしているけれどもみんなが彼女を見る目が優しいので多分あの難儀な性格が受け入れられたんだと思う。そしてどうやらナイン君も何故だか機嫌が悪いようだった。羽と光輪を消した彼は何故だか私の首元に腕を絡ませ離れてくれない。完全に甘えきっているのである。数分程で彼の吐息が耳にかかるのに慣れてしまった私の順応力を誰かに褒めて欲しい。
そんな彼の言い分はと言うと、


「ナマエ様、なんで彼らは呼び捨てなのに僕は"君"なんですか」
「だってナイン君が"様"とかつけるから」
「僕はいいのでナマエ様は僕を呼び捨てにしてください」
「等価交換って知ってるナイン君?」
「おいそこイチャつくな!」
「イチャついてなんかないよ!何言ってるのアレン!?」
「邪魔しないでくださいアレン」
「いきなり呼び捨てか!」


だってナマエ様じゃありませんし、と鼻を鳴らして横を向くナイン君。君ちょいと過保護、というか私に甘過ぎやしませんか?そんなナイン君の態度が気に入らないのかなんかアレンがワナワナ震えてる。というかこれイチャ……ついてるのか?すまん恋愛の事はよく分からない。鈍い訳ではないけれどもこれはイチャつくというより甘えられているだけ…のような気がするんだ!いや別にナイン君の体が細いのにわりと鍛えられてて抱きしめられててちょっとドキドキしてるとか、そんな事は無いですよ?


「ほらナイン君!離れて離れて!他の勇者達も探さなきゃいけないんだから」
「そうだっての。ほら離れろお前ら」
「っわ!?あ、アレフいきなり引っ張らっきゃあ!?」


ぐい、っと無理矢理ナイン君から引き剥がされ、ふらついたと思ったら今度は何故だかアレフの腕の中に閉じ込められていた。身長差が丁度頭一つ分生まれて、何やらアレフの「おお」という感嘆の声と共に頭に何かが乗る感覚。抱きしめられて頭の上に顎を乗せられたらしかった。お、おう……なんだか恋人っぽいですね?私達まだ出会って数時間ですよね?


「ムーンさんイオナズンで助けてくださいませんか」
「アレンほら!頑張れ!」
「えっ何を応援してるの?」
「ナマエ、こっち来いこっち。ハウスだハウス」
「アレンはなんなんだ!私は犬じゃない!」
「うーあー……俺このまま寝れるわ、あったけえ」
「私で暖を取るな!というか私が恥ずかしいからやめてくださいますか!」
「ナマエ様っ!破廉恥です!その男からすぐに離れて――いや引き離します!」
「元凶ってナイン君だよね?」


というかね、騒いでいる場合じゃないの!早く他の勇者達を世界中から見つけ出さないと!



これでも勇者の一人です


(2013/04/24)