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「はあ!?お、お前もこの世界の人間じゃねえのかよ!」
「……恥ずかしながら」


事情を説明させてくれるまでに数十分を要した私は疲れきっていた。三人が三人、同時に喋るものだから私に口を挟む暇なんて無くて、けれども頑張った。もうなんと言うか……物理的に?足払いをかけて三人を転ばせ、「私もこの世界の人間じゃないから!」と言い切ったのである。途端に黙り込む三人はちょっと可哀想だった。しかし勇者とその仲間がいつまでも落ち込んでいるはずは無い。


「そうか……じゃあ、お前らも俺もまた手がかりは0からか」
「そうね……でもアレフ、貴方と私達の居た世界は同じみたい。これは大きな収穫じゃないかしら?帰る場所が同じなのだから、一緒に行動した方が良いんじゃないかしら」
「俺は歓迎するぞ、アレフ」
「そうだな、じゃあこれからよろしく頼むよ」


見事私を他所に作戦会議を始めてしまって行動を共にする事を決めてしまった三人に少し驚く。柔軟な対応…!そして息の合いようも凄い。流石は先祖と子孫、と思ったところで思い出した。そういやこの人達選ばれし勇者とその仲間ですよね?


「ナマエはどうする?お前ももしかしてアレフガル――」
「アレフ!アレン!ムーン!聞いて!」


口を開くと途端に感情がほとばしるかのように私は大声を上げていた。驚いた表情の三人がぽかんとした顔で私を見る。


「貴方達は今のままじゃ元の世界に帰れないの!」
「な、っ……!?」
「でも私は、貴方達を元の世界に帰す方法を知ってる!だからお願い、私に力を貸して!」


**


私がこことは次元の違う、魔物の居ない世界から来たこと。
セレシア様やルビス様達から聞いた、魔王と暗黒のオーブのこと。
水晶玉に閉じ込められた天使と、その仲間のこと。
時間と世界のバランスが崩れ始めていること。

全てを話し終えると、信じられないと言った顔をするアレフとアレン、そしてムーン。そりゃそうだろう。私はアレフが存在する時間とアレンとムーンが存在する時間は異なるものだということも話したのだ。――血の繋がりがある、とも。


「……アレフが、俺達のご先祖様……?」
「それだけじゃない。ルビス様達の話によると、全ての時間の勇者がこの世界に集っているの。魔王を討ち果たすために。だから多分、ロトの勇者もいると思う」
「まさか、……そんな」
「それを俺達に信じろと?」


アレンの目が、言葉が私を射抜いた。そりゃそうだろう。川で拾った女がいきなり「元の世界に帰れない」だの「倒したはずのシドーや他の魔王ががより強力になって復活している」だの「道端で出会った男が自分たちの先祖」だのと言っているのだ。
普通はそんな言葉を信じる人間なんて居ないと思う。勿論信じて貰えない、という覚悟はあった。

―――でも、きっと"勇者"なら信じてくれる

不確かな根拠。それでいい、と思う。だって彼らは勇者なんだ。
だからこそ絶対的に信じられる。色んな勇者の冒険を見てきた、自分だから。
私からの信頼を捧げるから、―――信じてくれませんか?

アレンの目をじっと見つめ返した。嘘を吐いていない心が生み出す自信。さあ、


「私は信じるわ」
「…!ムーン!」
「アレンもそうでしょう?この目が嘘を吐いているはずが無いじゃない」
「……ああ、そうだな」


鋭いアレンの目線が細められた。優しく緩む口元に思わず息を吐き出した。ああ、やっぱり自分は少し緊張していたらしい。それはしょうがないと思う。
ぽん、と肩に手の置かれる感触。横を振り向くとアレフがにやりと笑って自分の兜を脱ぎ、私にかぶせた。サイズの合わない兜に驚く私がアレフを見上げると、アレフの黒髪がさらさらと風になびいている。


「俺も信じる。竜王が復活してるなんて洒落になんねえしな」


それじゃあ行きましょう!とムーンが杖を空に突き出すと同時に、何故か空からナイン君が降ってきて私を抱きしめた。サンディも一緒だった。どうやら探してくれていたらしい。



勇者は困っている人を見捨てないから勇者なのです

(ナマエッ!大丈夫でしたか!?)
(あとこの人達誰ヨ?)

(アレフガルドの勇者だよ!)

(2013/04/16)