15


ぶつぶつ、と何か頭上で言葉が交わされている気がしたのが『意識が戻っている』と感じた瞬間だった。それと同時に沈んでいた意識が少しずつゆっくりと戻ってきたみたいだった。
薄目を開けようとして思わずうっ、と小さく声が漏れる。頭痛が酷い。私は何に頭をぶつけたのだろう。滝壺の中にあったあの大きな石だろうか。
……そこまで考えて再び呻いた。あらん限りの力を振り絞って体を起こそうとする。けれどもぴくりと跳ねるだけの体。あっこれ……魔物に襲撃されたら私死ぬんじゃない?
初めての教会送りか。死因は滝壺に落ちた時に石に頭をぶつけたから、だなんて冗談にならない。酷い教会送りがあったものである。
スライムに倒されるより遥かに格好悪いそんな死因でお金も半分にされるのかと思うと情けない意味で何かが流れるのを感じた。あっこれ涙じゃない。後頭部だ。血が出てるんじゃないか私


「――い、おい、……するんだよ!」
「…ルが……」
「……!ここだ!ムーン、ベホマを!」
「…ええ!……んでは、なかった……」


意識がはっきりしないからだろうか。上手く頭上で交わされる言葉が聞き取れない。でもはっきりと聞き取れたのは"男の子の声が二つと女の子の声が一つ"ということ。
女の子の名前は"ムーン"と呼ばれていたそれだろう。どこかで聞いた事のあるような?そしてもう一つ。"ベホマ"。体力を完全に回復させる呪文だ。


「――ベホマ」


凛とした綺麗な声が響くのが聞こえた。――途端に体中に不思議な力が湧いてくる。一瞬で引いていく痛みと流れるのを止めた血。……なに、これ。
ゆっくりと目を開けた。どこかに寝かされていたらしい私の体を覗き込む三人分の影。


「………あ」
「良かった!目を開けてくれて!血を流しながらあなたが流れていくから、死んでると思ってザオリクを何度かかけたんだけど…生きてたのね!本当に良かった!」
「ほら、これ君のだろう?見た事も無い剣だけど相当強そうだ。…一体誰にやられたんだ?」
「後俺達聞きたい事あるんだわ」

「「「ここ、どこ?」」」


その三人が初代主人公と二代目主人公。そしてムーンブルグの王女だと理解するのに数秒も必要としなかった。
あと私もここがどこだか知りたいのと、聖徳太子じゃないから一度に喋られても困惑しか出来ないので愛想笑い。とりあえず初代主人公ことT主から銀河の剣を受け取った。これで弱いなんて多分鼻で笑われるんだろうな!


**


「……えっと、死にそうなところを助けて頂いちゃってありがとう」
「気にすんなって!しかしビビったぜ、見た事無え魔物に財布取られて川に投げ込まれて、それ探してたらお前が流れてきただけだし」


からから、と初代主人公が笑う。私が目覚めた場所はキサゴナ遺跡(らしき場所)で、ウォルロからそんなに離れているわけじゃなくて少しほっとした。
しかしちょっぴりドジなんだな初代主人公。そして運が悪いんだな初代主人公。川からどんぶらこっこー、なんて人間が流れて来るなんて。
それにしても……あの唐突な地震はなんだったのだろう?とりあえずナイン君と合流したいのだけど、ムーンブルグの王女が安静にしなさいと何故かイオナズンらしき構えを取って脅しをかけてきたのである。そりゃ黙って横にもなりますよ。


「でも危なかったのよ?反対側の岸に私とアレンが居なかったら…彼ザオリク使えないんだもの。死んでる死んでるザオラルザオラル、としか言わなかったし」
「そりゃ川から死人…しかもすっげえ強そうなのが流れてきたらビビるだろ。ってムーンだっけ?そっちはアレンっつうの?」
「ああ、そういえば自己紹介がまだだったな。俺はアレン。で、こっちが――…」
「私はムーンよ。二人は?」


あっ、当然のように私も数に含まれてるのね


「俺はアレフっつーんだ。お前は?」
「あ、私はナマエって言、」
「ナマエ、俺達は元の世界に戻りたいんだ。正直目が覚めたらここに居て……意味が分からない。サマルも探してさっさと戻らないと」
「ナマエはこの世界の人なんでしょう?ここはどこなの?アレフガルドじゃない…わよね?」
「お前らアレフガルドから来たのか?俺も元の世界、つまりアレフガルドに帰りたいんだ。ナマエ、何か知らないか?」
「自己紹介ぐらい最後までさせてよ!」


だから私は聖徳太子じゃないんですってば!



助けられ、問い詰められ




(2013/04/16)

アレフ、アレン、ムーンちゃんとの出会い。サマルが居ないのはご都合主g…おっと誰か来たようだ
ベホマのくだりで回復系最高位の呪文って書きそうになりましたが良く考えたらベホマズンは当然、対象が一人でもマホイミが上位に存在するのを思い出して自重しました。マホイミかっこいいよマホイミ!アリーナの閃華烈光拳よりマァムちゃんの閃華烈光拳のが好きだったり。あれはポップじゃなくても惚れる