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「ほらナマエ様、ここがウォルロ村ですよね?着きましたよ」
「………スライムにすら………」
「ご友人が宿屋を営んでおられるのでしょう?早くそこで休みましょう」
「………ズッキーニャにですら………」
「……あのー、ナマエ様?さっきの事はそんなにお気にならさずに……」
「一回も………一回も当たらなかった……」
「………ダメだワこりゃ。重症ね。さっさと宿屋に行きましょナイン」
「え、ええ……」


燃え尽き真っ白な灰と化した私の腕をナイン君が引っ張るのをどこか客観的に見てしまう自分。何故。どうしてこうなったのか。
―――時は数十分程遡る。


**


「きゃあああああああッ!」
「叫び声!?」
「どこから、ってナマエ様!」


セントシュタインとウォルロ村を繋ぐ峠を越え、薄く引かれた道を進んでいると女の子の叫び声が耳に飛び込んできた。
思わず声の聞こえる方に走り出す。道を逸れて木の生い茂る林の方へ。ナイン君の待ってください、という声が聞こえたけど振り返らなかった。
川沿いの林を走り抜けると村と滝の見渡せるちょっとした場所に抜けた。綺麗な蜘蛛の巣が敷き詰められていて、地面はきらきらと光っている。
そしてその中央で、小さな少女がスライムとズッキーニャに襲われていたのだ。


「……あ、ああっ……お姉ちゃん……!」
「お姉ちゃん?って、ああ!」


この子はウォルロ村のまだら蜘蛛糸を集めてる子だ!クエスト001の!
恐らく黙って村を抜け出したのだろう。門番は何をやってるんだ、と文句を言いたいが今はそんな事を言ってる場合じゃない。
迷うこと無く剣を抜いた。重いけれどもそんなことは重要じゃない。いくら見た目が可愛いモンスターと言えど、こんな小さい女の子を襲うだなんて…!
私の登場に驚いたのだろう。こちらに注意を向けた魔物達を見逃さずに少女と魔物達の間に飛び込んだ。即座に見よう見まねで剣を構える。
片手じゃ持てないから両手で柄を握り、真っ直ぐに背筋を伸ばす。(この時私は自分が自然と剣道で言う"中段"の構えを取っていた事を知らなかった)
とりあえず庇いながら戦うなんて初心者には難しい。ナイン君達が来るまでなんとか…!


「いい、えーと……名前なんだっけ?」
「わ、忘れちゃったのっ!?マロンだよ!」
「そうだマロンだ!思い出した!」


クエスト001をやったのなんて一番最初だし、拠点はセントシュタインだったから完全に忘れ去ってたよ!
……って言っても通じないだろうし泣かれるだろうからやめておこう。ごめんねマロン。


「じゃあマロン、あの…うん!細かいことは気にしない!私から離れないでね」
「え……?」
「さっき走ってくる時に色々見えたのと、今あなたは混乱してるから川にでも落ちたら大変な事になると思うし」


主にリリパットとかリリパットとかモーモンとか。こんな小さい女の子なんだから標的にもされるだろう。
ああもうナイン君はまだか!さっきお守りしますとか言ってたのはなんだったんだ!私の純情を返せよコノヤロー!
必死で頭を回転させるけれどもこの状況を一発で打破するにはやっぱり私が戦うか、もしくは川に飛び込むしかないのだろうか?


「……ああもう、そうだよ!いつかは魔王と戦うんだ…!」


構えた剣がこの世界では最強のものだと知っているけれどやっぱり怖い。でも後ろにもっと怖がってる女の子がいるんだ。
目だけで後ろを見ると縋るような目のマロン。正面を見直すと銀河の剣に怯えつつもマロンを付け狙うズッキーニャ達。
そうそう、最終目標はあのダークドレアムさんなんですよ?それに比べて私はレベルマックス。レベル1で出会うモンスターなんかに負けはしない!はず!


「ここは一発ギガブレイクで決めてやる!」


秘伝書はちゃんと腹に仕込んできたんだから、きっと行けるはず!
ギガデイン!と叫ぶと青空が黒雲に一瞬で覆われた。ごろごろと鳴る雷に目の前の魔物達はきょろきょろと周囲を見渡し始める。
なんだ、やれば出来るんじゃないか私!剣を空に掲げると、黒雲から一筋の光が剣に向かって落ちてきた。そのまま銀河の剣が強力な雷を纏う。

―――くらえ、


「"ギガブレイク"!」


剣を振ると同時に斬撃と雷がモンスター達を切り裂く!……はずだったのだが。


**


「不発って……不発って……」
「いきなりギガブレイクなんて試すからでショ?バカなの?」
「だってギガデインは成功して……あうううう………」
「ああ、あれは自然の雷ですから当然です。ナマエ様はこの辺にあった雨雲を集めちゃっただけみたいですし」
「……へ?」
「お姉ちゃん、今日はいきなり雨降ってくるわよーってママが言ってた」
「……………うわああああ」


そう、お察しの通りギガブレイクは不発。残されたのは最高に格好悪い私と呆然とした魔物達とマロンだけ。
そして直後、呆然とする私が完全に見た目だけのハッタリだと認識した魔物達は総攻撃を仕掛けてきたのだ。当然自分の身でマロンの盾になるしかなかった。
ちなみに多分、結果として私のHPは870中10も減っていないだろう。しかし数の暴力とは恐ろしいものである。
キズは無いし体力にも影響はないけど精神的にはかなり削られた。SP(精神ポイント)とかあったら多分私瀕死状態だ。本格的にこれは辛いものがある。きつい。
時折繰り出したパンチや振ってみた剣は全て避けられ最終的には私の頭の上でスライムが二匹ふんぞり返ってくれやがった。マロンの目は冷めていた。
結局は雷のおかげで居場所を見つけてくれたナイン君の破邪の剣の炎で魔物達は一撃。結果、マロンは完全にナイン君に懐いてしまった。あるえー?


「げ、元気出してくださいナマエ様、美味しいものでも食べて……」
「お兄ちゃん!あたしお兄ちゃんに美味しいもの作るね!ご馳走する!」
「いや僕はですね、」
「サンディ、私かっこわるい……」
「……飛び込んだまではかっこ良かったのヨ。黙って剣振り回してりゃ良かったものを……」


多分数打ちゃ当たってたワ、と鼻を鳴らすサンディから目を逸らす。うん、実は分かってるんだ。
多分振り回しても絶対マロンと自分にダメージ与えるだけで魔物は倒せなかったと思う。
そう、レベルマックスと言えば聞こえは良いけどそれは体力だとか魔法力のみだ。中身はレベル1以下の今の自分に今後の不安を感じられずにはいられない。

―――どうしよう?



スライムすら倒せない!?

(完全にこの周辺の魔物に馬鹿にされたな私)


(2013/04/10)

(そして伝説へ…の雰囲気で)そしてHPしか取り柄の無い系ヒロインへ…