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『とりあえずは二人きりで話をしたい』というナイン君の言葉にきゃっ、なんて楽しそうな声を出したのはルイーダだった。
どうやらナイン君はここに来てから私を探している、という事しか言っていなかったらしい。それをルイーダ達は色恋方面だと捉えたらしい。
私の知り合いならと手伝いまで押し付けられるレベルだからかなり馴染んでしまったのだろう。何の躊躇も無く私が最初に目覚めた部屋に通された。

―――で、今に至るのだけど。


「「勇者達の場所が分からないィ!?」」
「ええ、その……僕には探知能力はまだ備わっていなくて」
「「セレシア様(おねーちゃん)ってば、無責任…」」


息ピッタリですね、とナイン君が苦笑するのにサンディが反応した。私は無視して考え込む。つまり自力でこの広い世界中から探しだせと言うのですかそうですか。うわあ酷い!
水晶玉の中のこの子ならばともかく、私はこの世界に来てまだ丸一日すら経っていないというのにこの扱い。
セレシア様ってば綺麗な顔してやることが雑というかなんというか。まあ神様ポジションは大体そんなものなんだろうか。
まあ封印されてるらしいし……しょうがないか。文句を言っても始まらない。


「とりあえずは情報集めから、か。色んな人から話を聞けばそれっぽい情報があるだろうし」
「えっ」
「え、驚くような事?情報収集は基本じゃないの?『珍しい格好をした戦士』とかそういう情報を集めてどこに向かったか聞くんでしょ?」
「………アンタ、才能あるワ」
「あ、なんか褒められらた気がしない」


これをRPG脳と言うのだろうか。とりあえず話し合いの結果、ウォルロ村から当たってみる事にした。
出発する前にセントシュタインでも一通り情報を集めてみたけど、それっぽい情報は得られなかったから今後に期待しよう。
あと教会に行ったら本当に冒険の書を見ることが出来た。手を組んで祈るだけで私のこれまでの行動が記録されるとは…おそるべしドラクエ


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「うわーっ、本当に目の前にスライムベスがいる!可愛い!スライムベス可愛い!」
「……サンディ、ナマエ様のこのテンションは……」
「関わりたくないワ」
「………僕もです」


後ろから冷めた声が聞こえるけどさっくり無視。目の前の橙色をしたゲル状のモンスターは完全に怯えているけれどもそちらも無視。
超可愛いのである。やだスライムベスさんあなた天使か。個人的には青のが色的には好きなんだけれども実物を目の前にするとベスでこれである。
青の方に会ったら私どうなるんだろう。自我を保てる余裕なんてなくなりそうだ。飛びついて抱きしめて離さないかもしれない。


「……幸せ」
「こら!いい加減にしなさいッ!アンタの目的はスライムベスを抱きしめる事じゃないでしょーがッ!」
「うわああああ髪の毛!引っ張らないでよばか!」
「バカとは何よバカとは!というかアンタ武器も持たないでどうするっての!?」
「あ、ほんとだ。……でも私、武器なんて使えな―――」
「持ってりゃ良いじゃない。それだけで大抵のモンスターは逃げてくわヨ」
「まじすか」


ほら、と示されたのは銀河の剣。最初に持った時にかなり重いと思ったけど、こんなもの振り回せるんだろうか、私に。
―――戦う、なんて今までの人生では一切触れてこなかった。特別格闘技を習ってたなんてこともない。それなのに私に出来るんだろうか?
剣の柄に触れて、そのまま動きが止まる。……今更ながら戦いが怖い。逃げない自信がない。魔王なんて実際倒せる自信がない。
あんな大口叩いちゃったから気丈に振舞ってはいるけれど、いざ剣を手に取るとなると怖くて怖くて―――……


「大丈夫ですよ」


え、と声にならない声が空中に霧散した。私の手を剣の柄ごと優しく握り締める手。ナイン君?


「剣でしたら多少は僕が教えてあげられますし、いざという時は僕が貴方を守ります。だから不安なんて感じなくて良い」


そのまま私の手を握り、目を閉じて口元を緩めるナイン君。
多分本気で言葉通りの意味なのだろう。しかしこれ何て殺し文句ですか?
イケメンに耐性なんて持っていない私はその一言で「ぼんっ」なんて効果音が付きそうな勢いで林檎も顔負けなぐらい真っ赤になってしまったのだった。



なるほど、天然タラシですか

(ナインったら、まーた……)
(半分意図的じゃないのアレ)

(さあ、どうでしょう?)


(2013/04/09)

本来は初戦闘回の予定でしたが登場が不憫だったのでナイン君にお花を…