11


からんころーん♪
リッカの宿屋の扉に付いた木製の鈴が可愛らしい音を立てる。
――さあ、どんな天使が私のサポートをしてくれるんだろう?とわくわくしながら扉を開けた私は一瞬で凍りついた。


「ああ、いらっしゃいま―――」
「…………すいません間違えました」


躊躇鳴く扉を閉めて全力で逃げる―――はずだったのだが、振り返ると笑顔のリッカが買い物かごを持って立っていた。あ、これ逃げられない……


**


「初めまして、お初にお目にかかります、ナインと申します」
「………ナマエです」


セレシア様直属、だと名乗った少年には天使の羽も輪っかも無かった。見た目は至って普通の人間の少年。……明らかな違和感を除いては。
先程はどうしてお逃げになられたのですか?と心底不思議そうな顔で問いかけてくるナイン君からすっと目を逸らす。
えっ何、ギャグなの?ギャグなんですか?何でメイド服なんですか?イケメン台無しじゃないですか。
というか敬語キャラなの?明らかに同年代ですよ。同年代のイケメン天使君のメイド服姿……

そういえばレナさんとルイーダがさっきからくすくす笑ってるのが聞こえる。ラヴィエルは苦い顔。ここで大体察してしまう。
リッカが買い出しに出るからってここに着いてたナイン君は巻き込まれて手伝いをさせられてたんですね?メイド服は着せられてしまったと!


「とりあえず元の服に着替えてくれますかナイン君」
「ナインで結構ですが、何故でしょう?」
「それは女の子の服だと思うんだ」
「へ!?る、ルイーダさんっ!?レナさんっ!?」


ああやっぱり知らなかったんだね…!哀れやナイン君。そうだよね、天使って人間の常識に疎そうだもんね!
でも気がついても良いと思うんだ。天使界にもスカートとズボンぐらい……あ、そういえば天使の服ってみんな同じような感じだからしょうがないのか。
真っ赤になったナイン君が犯人であろう二人を振り返る。あ、必死に笑い堪えてるなあれば。目尻に涙が浮かんでる。


「……っ、あはははは!!だってまさか本当に着てくれるなんて思わなくって!」
「それに似合ってるんだもん、可愛いよナイン君……っ!あははは!!」
「笑わないでください二人共!ああ恥ずかしい…!仕方ない、目前失礼しますナマエ様」
「へ、まさかここで着替え―――」


ストップ!と言う前にナイン君の手が空を切る。すっ、と綺麗に引かれたラインから光が漏れ出し彼を包み込んだ。
それはほんの一瞬のこと。光が収まると彼はメイド服から天使の衣装へと身にまとう物を変えていた。何このチートお着替え。
ついでに赤面から生真面目そうなきりりっとした顔になるナイン君。腰に携えているのは破邪の剣。おお、強そう。
背中には盾。…女神の盾だろうか?そして光と共に現れたのは羽と光輪。


「改めましてナマエ様、女神セレシア様直属の部下ナインと申します」
「自己紹介わざわざやり直さなくても……後"様"ってのやめて欲しいな、そんな人間じゃないし」
「異世界から来訪された崇高なるお方だと伺っております。セレシア様に代わり、今は貴方様が僕の主ですので」
「諦めなさい、ナインはこういうヤツよ」


目が悟っているサンディがぽん、と私の肩に手を置く。そうか、セレシア様の直属って事はサンディと面識があってもおかしくない。
……というか何この扱い。ぞわっとする。崇高……だと?崇高?主ィ!?目だけで必死にラヴィエルに助けを求める。あ、目逸らされた


「え、えーとナイン君」
「ナインとお呼びくださいませ」
「……ナイン、セレシア様の直属って事は明らかに上位の天使なんじゃ」
「僕はまだ半人前です」
「……………さ、さいですか」


どうしよう。跪かれてるんだけど私に威厳も何も無いモンだから違和感しかない。
それに不思議な事がある。サンディとかラヴィエルはリッカ達には見えないはずなのにナインは見えてるの?
天使は人間には見えないはずだ。なのにレナさんはさっきのチートお着替えで「おお、早着替え」なんて呟いてたよね?何故だ、まったく分からん


「ああ、僕の羽と光輪はリッカさん達には見えておりません。普通の人間と変わりなく見える筈です」
「へ!?こ、心読みました!?」
「顔に書いてありました。他の世界の勇者に僕が見えないとなると戦闘にお役に立てないでしょう?」
「あ、そうか」


なんという都合の良い天使君なのだろう。そんなわけで、仲間が出来ました。


女神の使い

(ああそうだ、ルイーダさん達はあなたが異世界から来たという事を知りません)
(他の者…例えば勇者達とて話す事は僕は禁じられております)
(――話す時は、貴方様から……と)

(それ序盤の方で言ってくれないかな)


(2013/04/08)

メイド服で登場させたのは明らかに趣味です。モロバレですね
\のメイド服はかなり可愛いと思うのです!