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「……あーあ、またやっちゃった……」
「アンタ、何あんだけ大口叩いといてそんな沈んでんのヨ」
「悪い癖だって知ってるの!こう、……ああ、いつ帰れるんだろう私」
「知らないわヨ!アタシだってお姉ちゃんが……ナマエが……って、アンタの事じゃないからネ」
「分かってるって。……はあ」


あの時の自分はもう訳の分からない事ばかり起こるから混乱して興奮していたのだと思う。何故こんな面倒な事を引き受けたのだろうか。
ちらりと隣を見るとサンディがメイク直しを完了させているところだった。沈んでいるのにメイクはばっちり。尊敬する。
正直言うとこういう面を見るだけで少し安心するのだ。さっきの沈みようは凄かったから、これぐらいの憎まれ口を叩いてくれる方がほっとする。

この子の為に頑張ろう。それから……―――ポケットに入れてきた水晶玉を取り出す。閉じ込められた少女達は眠ったままぴくりとも動かない。
そういえばセントシュタインに置いてきた"ふくろ"には彼女らの持ち物や装備品、秘伝書なんかも入っていたはずだ。
一応自分のキャラクターのスキル程度ぐらいなら記憶にある。秘伝書関連で私が使えるものは使ってさっさとオーブを砕いちゃおう。

―――数時間後、私はこの安易な考えを死ぬ程後悔することになる。


「……もうすぐセントシュタインに着くわヨ」
「ねえ、何で名前で読んでくれないの?」
「ッ、アタシはねえ!アンタをまだ認めたワケじゃないの!」
「うわっツンツンしてら」
「第一何ヨあれは!あ、アタシが泣いてたってアンタにゃ関係無いでしょーが!何でこんな事引き受け……」
「……へ、もしかして心配してくれるの?」
「べっつにィ!?あ、アンタを心配なんてしてないんですケド!」
「サンディさーん、顔真っ赤ですよー?」
「チークよッ!」


ぷいっ、と顔を逸らすサンディがやたら可愛く見える。本当は良い子だよなあこの子。
ギャル系の子は正直苦手だけれどもサンディなら許せてくる不思議。…まあ、これ以上いじると本気で怒られそうだから自重するのだけど、


「ねえ、案外ナマエと私はまったくの別人でもないんだよ?」
「……だからどういう意味ヨ」
「私はずっとこの子の中にいて、この子とサンディと冒険してたんだもの」


嘘じゃない、これは本当の事だ。どうしてこんな漠然とした言い方しか出来ないのか?
それは私がこの世界に生きる人に対してこの世界がプログラミングされた世界なんて言えない臆病者だからだ。だからこんな言い方になってしまう。
自分だって自分の生きていた世界がゲームの世界だ、なんてよく知らない人間に言われたら激怒すると思う。それが分かっているからこそ。
多分セレシア様とかは理解してくれてるんだろうけど、分からない人には分からないままでいてくれたらと思う。
だって実際に街に言ったら、同じことを繰り返して喋る人なんていない…はずだもの。そんなヨシ○コみたいな世界があってたまるか。


「……それでも、まだ名前は呼べない」
「うん。じゃあさ、いつか"私"を認めてくれたらその時は名前を呼んでよね」


複雑なサンディの心境なんて私にはちゃんと理解出来ないから、でも待つ事ぐらいは出来るんです。
だからしばらくは"アンタ"でもちゃんと反応するよ。


「え〜、間も無くセントシュタインだ!降りる準備しとけよお前ら二人!」
「テンチョーうるさっ!」



天の方舟内に響き渡ったアギロのアナウンスに耳を塞ぐサンディが少しだけ笑う。釣られて私も少し笑った。
―――さあ、セレシア様が遣わしてくれたっていう天使に会いに行こう。



きみとはじめる、新しい冒険

(幕は今、上がったばかり)


(2013/04/06)

第一章は仲間収集とヒロインが男前からスライム以下に降格する章です。