09


「……本当に、良いのですか?」
「一度言った事は曲げません。やると決めたんです。やります」


ただのエゴでも自己満足でもなんでもいい。もうサンディのためにやってやる。死にたくないから死なないように、何がなんでもやりきってやる!女は度胸と根性だ。腹をくくったら向かい合うしかない。…ハッピーエンドを迎えたあとに、泣いているなんておかしいのだ。全部終わったのに。終わらせたのに。


セレシア様。
ルビス様。
ラーミア。
マスタードラゴン。
神さま。
何度見てもこのオールスターには慣れないだろうと思う。この人達が私を頼っているのなら、ああ――応えて見せようじゃない!サンディを救うことが世界を救うことに繋がるのなら、やってやる!もう、なんとかなるまで踏ん張ってやる!


「私はどうすれば、この世界を救えるんですか?」
「――元凶である"魔神"ダークドレアムを操っている暗黒のオーブを砕けば、魔王達は討ち果たされた時の時間に戻り、朽ち果てるでしょう」
「……ダークドレアム」


セレシア様の言葉からすれば、恐らく暗黒のオーブとやらのせいで"あの"ダークドレアムもかなりの力を手に入れているのだろう。おまけに魔神を操る力を持つオーブなんて、一筋縄で砕けるはずがない。けれどやらなきゃサンディは報われないし、私は元の世界には帰れない。――やらなきゃ、この世界の本当の主人公は帰ってこない。


「セレシア様、暗黒のオーブを砕けばその子達は復活するの?」
「この四人はオーブではなく魔王達の力により一度消滅させられました。その時に魔王達の複数が彼女らの力を宝玉にして奪ったのです」
「………は?」


――ちょっと待ってください。すごく嫌な予感がするんですけれども気のせいですか?


「存在そのものを消滅させられる前に間一髪救えたのですが、今この中にいる彼女らは力を完全に奪われています」
「……つまり、超弱くなってる?」
「貴方の世界で言うところの『Lv,1』というところです」


ぷつん、と頭の中で何かが切れる音がした。魔人斬りに一閃突き、犠牲になったプラチナキングの可愛らしい顔が浮かんで消える。これはもうやるしかない。魔王を絶対倒すしかない。費やした時間を無に帰した魔王はとにかく絶対やるしかない。…って、あれ。えっじゃあつまり私も、私ももしかして!?


「セレシア様っ!もしかして私も今すごく弱い!?」
「わわわっ!?あ、いえ、ナマエは天使の力で奪われず、それを貴方が引き継いでいるので……!」
「ほ、ほんと!?本当だよね!?嘘ですとか言ったら私実家に帰ります!」
「うううう嘘じゃありませんからゆ、揺らさないで!?」


**


セレシア様が目を回してしまったのでルビス様やマスタードラゴンから話を聞いたところによると。


「じゃあつまり、この世界に居る魔王の誰かを倒せばこの子達の力を一つずつ取り返せるんだね?」
「…ああ」
「で、この世界の私が復活するためには私が元の世界に帰らなきゃいけない…と」
「ええ、その通りじゃよ」
「元の世界に帰るためにはセレシア様とルビス様、ラーミアとマスタードラゴン、神さまの力が奪われて封じられてる暗黒のオーブを砕かなきゃいけない」


マスタードラゴンと神さまが頷く。セレシア様を支えるルビス様、私のせいでごめんなさい。とにかく結論としては力を封じられてるとかいう宝玉を魔王の誰かからドロップして、仲間を全員復活させて、暗黒のオーブを砕いて魔王を滅ぼす。という事だ。
何で引き受けちゃったんだろう、というぐらいに面倒な内容だけど一度決めたんだから曲げるわけにはいかない。何よりサンディのため。そうサンディのためだ。…もうやってやると決めたらやり遂げる!そしてすっぱり元の世界に帰る!

――ふとセレシア様が顔を上げた。見据えられて少し戸惑う。


「ナマエ、貴方と共に戦う各世界の勇者とその仲間達がこの世界にやって来たようです」
「……分かるんですか?」
「感じるのです。そして……私達がここに居ることをそろそろ感付かれそうだということも」
「――ッ」


優しくセレシア様が微笑んだ瞬間、周囲が光の泡で包まれた。泡の発生源は神さま達だ。
ふわふわといくつもの光の泡が宙に浮かんでは消えていく。ラーミアが、続いてマスタードラゴンが、ルビス様が、神さまが泡になって、そして。

――最後の言葉は、みんなおんなじ。


「ま、待っ―――!」
「ナマエ、そろそろ限界のようです……お願いします、この世界を守って」
「っ、分かったけど、でも!」
「先程ラヴィエルのところに私の直属の部下を遣わしました。彼があなたをサポートしてくれます。各地を勇者達を集めて」


―――暗黒のオーブを砕いてください、と告げてセレシア様も姿を消した。


課せられた使命を胸に抱きし、新たな勇者の冒険の序曲

(この水晶玉、置いてったってことは私に持ってろってことか)
(ねえサンディ、涙止まった?)
(………余計なお世話、ヨ……)
(そっか、余計なお世話だったか)

(それじゃあ行こう?――サンディの友達を、この世界の取り返すために!)


(2013/04/05)


負けず嫌いで男前な子って書いててすっごく楽しいです。これにて序章完結!