04


―――女神セレシア。

創造神グランゼニスの娘であり、人間を滅ぼそうとする神から人間を守った女神。
温和で柔和な性格と女神の名に恥じぬ美しさ。人間を天の上から優しく身守る……


「―――だったよね?」
「合ってるっちゃ合ってるワ」
「私をこの世界に呼び込んだのは、セレシア様……か」


ラヴィエルの言葉が頭から離れない。嘘…を吐いているようには見えなかったし、そもそも嘘を吐く天使は9の世界に存在しない、と思いたいところ。
ここは天の方舟の中。方舟を運転しているアギロは既の身に起こった異変を察知してくれているらしく、『今は何も言わねえ』と男前な背中を見せてくれた。元より低くはなかったアギロの株がぐんぐん上がっていて自分でも驚くぐらいには男前だった。
…話が少し逸れた。とにかく私は今、二両目のボックス席のソファーに腰を沈めている。正面にはサンディ。じっと私の顔を見つめて逸らさない彼女は納得の行かない、と言いたげな表情で窓の外を見つめる私から目を逸らさない。


「ねえ、アンタって本当に……別人なのネ?」
「……上手く応えられない」
「上手く答えなくていいから教えなさいヨ」


――言葉に戸惑う。私は彼女にこの世界をゲームの世界、だと告げて良いのだろうか。私の世界ではこの世界は一種の決められたストーリーをなぞり、サンディはその中心核にいる。…自分の行動がプログラミングされたものだなんて。自分が言われたら何を言っているんだこいつはとなることを考えれば、言いたくないと思ってしまう。
サンディは自分の行動や色んな事柄が決められていた事だと知って、どう思うのだろう?
きっと彼女は信じられないし、何よりそれを告げてはいけない気がした。ただ、別の世界からあなたとずっと一緒に冒険していたと言って…それを、信じてくれるのだろうか?けれど言わねば彼女は納得しないだろう。


「サンディ、とりあえず大声を出さないと約束してくれる?」
「これ以上驚く事もないから黙ってるわヨ」
「ほんとに?」
「……アンタを信用しないワケじゃないから。アタシが見えたってことは普通の人間じゃないだろうし」


あっ心が痛い。中身は至って普通の人間だなんて口が裂けても言えない雰囲気だ。まあ口を裂いてでも言わねばならない事なのだが、どちらかというと心が張り裂けそう。


「私はここじゃない、―――別の世界から来たの」
「はァ?」
「魔物も居ない天使もいない、……魔法ではなく"科学"が発展した世界から」


そしてそこからは、この世界を画面越しに見つめる事が出来た――……と言い終わる前にサンディの大声が車内中に響き渡って列車が激しく揺れた。




女神さまの元へ


(2013/03/08)