02


「ごちそうさまでした」


手を合わせて軽く頭を下げる。向かい側には膨れっ面のサンディ。
……さて、どう説明すればいいのか。最初の課題はこの小さな妖精の協力を得ることだ。
とりあえず自分の仮説(ゲーム内の自分に成り代わった)を確定させるためには聞いておかなきゃならない事がある。これが一致してれば恐らく原因は分からないけど、仮説はきっと"大当たり"だろう。


「話す前にいくつか質問していい?確認したい事があるの」
「………何ヨ」
「私って、―――強い?」


我ながらアホくさい質問だと思いつつ、恐る恐る聞いてみる。強ければ何かと都合がいいし、弱ければ元の世界に帰る前に散々な苦労をしなければならない。パラメータやらなんやらまで一致していたら成り代わり説から逃れられなくなるのだけど、そもそも成り代わりっていう成り代わり、なの…?自分が自分に成り代わるってなんだそれ。
まあ今の自分は普段と何ら変わりないから否定の言葉も有り得はするのだ。本音としてはこれがただの夢であって欲しいけど、


「はあ?バッカじゃないの?レベル99が何言ってんのよ」
「……あっ冗談抜きで?」
「『また転生しようかなー』なんて言ってたヤツのセリフぅ?アリエナイんですケド」
「ち、ちなみに現在の私の職業は?」
「魔法戦士よ」
「他の職業のレベルは…?」
「はあ?そんなに覚えてナイけどほとんどは90越えてたっしょ」
「……………さいですか」


確定、の文字が脳裏に躍る。頭を抱えて突っ伏した私を、なにヨと小さな妖精が気味悪げに見つめていた。いやあ、ゴールって全職カンスト、みたいなところあったし…証手に入れるるために仲間内でローテーションしてそれも全部上げたらゴールみたいな…あと勇者なんだし主人公だし一番強くしたいし、オールラウンダーにしたらこんな……倒したプラチナキングのあのなんとも言えない表情がフラッシュバックして消えていく。

…とにかく、私がカンストしているのは分かった。強い実感も筋肉も自分の体に見当たらないけど、パラメータが表示されているのなら私は最強の勇者様ってわけだ、それに最強の仲間がいるはず。…あれ?今着けている妖精の腕輪は確か仲間の魔法使いに渡していたはずだ。錬金で増やしたんだっけ?いや、増やした方も僧侶の子に装備させて――って……


「ねえ、みんな……は?」
「…………」


恐る恐る、の問いかけに目を逸らすサンディ。そういえば最初から部屋にも酒場にも、ここには私しか居ないのだ。ゲーム内に入り込んでしまったのならば、仲間がここに居るはずで。この装備も、他の子が装備しているはずだ。どうして袋に戻されていた?…――目を伏せて俯いてしまったサンディに嫌な予感が走る。


「…………ねえ、何で何も言わないの?サン、」
「アンタ、もしかしてアレのせいでそんな風になっちゃったワケ?」
「―――アレ?」


キッ、と鋭い目線が私を射抜く。その目の必死さにぴくりと体が震えた。


「昨日のあの紫色の光よ!あの変な光に包まれて、ナマエ以外みんな消えちゃったんじゃない!」
「……………え?」
「それでどうしようもなくて、ここに帰ってきて……!アンタまで変になっちゃうなんて!」
「待って、落ち着いて…!ひと、人目が!」
「ッ……」


サンディを制しながら周囲に目を向ける。確かサンディは普通の人間には見えないはずだ。幸いにも人はまばらだしサンディも落ち着いてくれたらしい。……そのまま頭を抱える。

――紫色の光?


そんなもの、私の記憶にはない。仲間が消えた?何、それ……。
昨日の夜は確か、適当に地図に潜った。セントシュタインの宿屋に戻った。寝て起きて、教会に走っていってセーブをした。閉じた。現実の世界で、私は眠った。紫色の光なんて知らないし、そんな追加ストーリーが配信されているはずもない。

―――ここはどこ?

どうしたら良いのか分からなくなって、縋るようにサンディを見つめた。――その瞬間。


「困っているようだな」


美しい翼を持った、銀髪の天使が背後に立っていた。


紫色の光



(2013/03/08)