なんとなーく
※剣城視点
※よくわからない回


「落ち着いたか、名前?」
「あーうん、落ち着いたー。……で、これ何?」
「失礼な!私をこれ扱いとは…!おい耳を引っ張るな痛い!」


抵抗するワンダバは苗字先輩の腕のなかで必死に抵抗しているらしい。……軽く押さえ込まれているけれど。
普段なら朝練を行っている時間。先輩たちも全員、雷門のメンバーは普段の練習よりも疲弊していた。
原因はもちろん苗字先輩の暴走のせいである。いい練習になったと言えばなったのだろうが。


「へえ、ワンダバって言うんだ。よろしくねダバー君」
「ダバー君!?私はクラーク・ワンダバット様だぞ!」
「じゃあクラバット君でいいや!」
「よくなァ―――――い!」
「ちぇー、じゃあワンダバちゃんでいいよ」
「ちゃん!?」

―――ツッコミどころが多すぎてもう突っ込む気にもなれないというのはこれのことだろう。


「先輩面白い人やんね〜…ね?キャプテン」
「俺は正直すごくびっくりしたけど……でも苗字先輩って凄いんだね、化身アームドまで出来るなんて!」
「僕、いきなり抱きしめられてびっくりした」
「わ、私も可愛いって言われてびっくりした……」
「葵戻って来い、名前に毒されてるぞ」


こちらもこちらで好き勝手に会話中だ。加わる気にはなれない。
壁にもたれて目を閉じる。――まぶたの裏にフラッシュバックする光景
顔に再び熱が集まってくるのが分かった。手を見やると柔らかい感触がまだ残っていて――


「揉んだもんね?剣城君……」
「っ、山菜先輩、驚かさないでください!」


かろうじて、のところで素っ頓狂な声を上げないですんだ。
そんな俺の前で山菜先輩はにこにことカメラを構えてぱちり。あ、撮られた


「ふふ、真っ赤な剣城君の顔ってレアだから高く売れるかも……」
「やめてくださいお願いします」


土下座してもいいと一瞬思った。というかそんなモン誰が買うんだよ!
にこにこと微笑む山菜先輩は読めないので相変わらずどうしていいのか分からない
そんな俺にすっ、と差し出されたのは山菜先輩愛用のカメラ。写真モードになっている


「これ見て?さっきの決定的瞬間…」
「――――な!」


ばっちりと写ったその写真はどう見ても俺が先輩を襲っているようにしか見えない、先程のもの。
呆然と山菜先輩の顔を見た。うわニヤけてる最悪だ
手が動いちゃったの……と嬉しそうにニヤニヤする山菜先輩に恐怖を感じる
とりあえずこれは消去してもらわねばならない。


「お願いですから今すぐそれ消してくださ」
「なになーに?二人で楽しそーっ!何見てるのさ私も入れてよ茜ちゃんに剣城!」
「うわっ!?」


背中に柔らかなものが当たる感触があって、それが自分の背中で潰れる感覚に再び顔に熱が登る。
背中に抱きつかれたと認識した時はもう遅い。ぱしゃりとカメラのシャッターが降りた音がした。先輩!?


「これ、見てた」
「おー!さっきのラブコメ展開か!いやーごめんね剣城、恥ずかしかったっしょ?」
「え、いやあの」
「私も恥ずかしかったけどね?まあ減るもんじゃないし私の事は心配ないさー」
「本当にすいませんでした」
「わざとじゃないからいーんだよ?意図的だったとか言ったらシュート打ち込むからな?」
「んなわけないじゃないですか!」


写真を見てもあっけからんとして、がーっはっはっはと笑う先輩の声が耳元で響く。
この人は、―――本当につかめない
一人称がくるくると変わるし、表情豊かだし、……見てて飽きないんだろう


「ところですいません、離れてもらえませんか」
「やだ!」
「……恥ずかしいんですが」
「まあまあいいじゃん!抱きつくぐらい減るもんじゃないんだから!」
「減ります」
「何がー?ああ、ピュアハート的な?剣城って実は純粋なの?」
「………」
「だんまりはおーよーし?本気で嫌なら離れるよー?ウザイ女にはなりたくないかんねー」


何て答えればいいのかわからず黙ってしまうと、途端に離れていく暖かさ。
―――少しだけ後悔した自分を殴ってやりたい
からからと笑う先輩の目線は俺とちょうどぴったり同じで、少し新鮮だ。


「ねえねえところで剣城!キミFWなんでしょ?シュート見せてよ!雷門のエースストライカーなんでしょ?」
「いきなりですか?」
「もっちろーん!私もFWだったからね!今はマネジで満足してるけど」
「……けど?」

「やっぱ、特別。ボール蹴ってるのが一番楽しいの。何をするよりも」


サッカーボールを持ち上げて、ゆっくりと口元を綻ばせる。
アームドをしてグラウンドを駆けていた時の笑顔とは違う、愛しいものを見る微笑み。
儚げでそれでいて美しい。

―――思わず、見惚れた

時が止まったのかと思うぐらいに長く感じた一瞬のあと、にやりとした笑顔に戻る先輩。


「なーに剣城、私に見惚れちゃった?」
「なっ」
「ふふ、冗談冗談!こいつサッカー馬鹿だなって思ったんでしょ?」
「………まあ」
「大丈夫!剣城もサッカー馬鹿の匂いがする」
「どんな匂いですか」



変態の勘はなんとなーく

(君もサッカー好きだって告げてる!)

(同類臭ってわけじゃないけど)
(サッカー大好きなんだろうなーっていう直感!)
(あー、でもそれなら天馬も負けてないね)
(それにしても可愛いなあ葵ちゃんに黄名子ちゃん…じゅるり)

(俺もう既に呼び捨てされてるどうしよう信助!)
(ぼ、僕にも分かんないよ天馬!)
(ちょっと怖いです先輩)
(今ぞくっとしたやんね)

(あれ、どうしたのみんな?)
(やだ君誰!?うさぎさんみたい!かわいい!)
(う、うわあああああっ!?)
(ちょ、フェイが餌食になったやんね!やめるやんね〜!)


(2013/02/08)