発端と若き日のあの人


「……なんだテメェ、どこから入った」
「い、いや、その、あのー…」
「部外者が監視をくぐり抜けてどう入ってきたのかって聞いてんだよ」
「えーと、まあまあ落ち着きましょう?ね?」
「誤魔化し方が下手糞なんだよ!」
「ひいい!」


何あの頭のペイント!何あの予想以上に黒々としたモヒカン!

どうするどうする、と私の後ろで狼狽えるワンダバの後ろは壁だ。冷や汗をだらだらと流しながら目の前にいる若き日の明王兄さんから目を逸らす。脇腹の真横には兄さんの足。蹴りを紙一重で躱した私は褒められていい。讃えられるべきだ。

「…瞬発力はあるみてえだな」ニタァ、と未来より遥かに悪人顔で口元を歪ませた兄さんはどう転んだら日本代表に選ばれるようなことになったんだろうか。完全にポジション敵サイドだよ!しかし過去でいくら顔が怖いとはいえ、気が付けば照れてしまっているのだから多分私はどうしようもない。「えへへ…」「あァ?」「すみませんでした!」普段からスパルタな兄さんに褒められるんだから嬉しいよ!ガンつけないでくださいよう!反射的に謝るとまあいい、となにやら懐柔出来た。ちょろい。


「おい、」
「う!?」


面倒くさそうに上げられた腕と声。反応して現れたのは多数の黒服の大人の人たち。やばい!やばいぞ!と大声を出すだけ出しながら首を振り、どうする苗字!と私を頼りにするワンダバを後でとっちめてやると心に決め、それなりに重いワンダバの体を抱き上げた。これ絶対懐柔出来てないよね!流れとしては多分おそらく、


「捕まえろ!」
「でっすよねええええ!?」


**


「ねえねえワンダバっ!?ここ本当に世界大会が始まる前の日本!?」
「あ、ああ…そのはずだ。もうすぐここに円堂や鬼道が…」
「なんで明王の兄さんあんなチンピラみたいな!」
「ワタシも知らん!」


ところで早くここから出たいのだが、と気まずそうにするワンダバは現状が分かっていないらしい。なんとか潜り込んだ女子トイレの掃除道具入れにぎゅうぎゅうに詰まる私とワンダバはここに来たことを酷く後悔していた。いや、こんなトラブルに巻き込まれるなんて予想もしていなかったんだもの!

元はと言えばイナズマジャパン時代の兄さんのことしら知らないからと私がジャパン前はどんなチームでサッカーをしていたのか兄さんに問うたのが事の発端だ。気まずそうな顔をして目を逸らした兄さんにこれは弱みになる!と思った私は鬼道さんのところに駆け込んで、そこで兄さんと鬼道さんが"真・帝国学園"なる場所で出会ったことを知った。大分酷い初対面だったらしく、明王の兄さんはかつては鬼道さんたちの敵だったという。ぜひその時代の兄さんを写真に収めれば少しは私も勝てるようになるかもしれないと、丁度遊びに来ていたフェイ君に取り残され哀愁を漂わせていたワンダバをそそのかして過去に飛び、10年前の愛媛にやってきたのがついさっきだ。偶然出てきた巨大な潜水艦に箱が次々と運ばれているついでに面白半分でワンダバと乗り込んだらジャパン時代とは少し違う(メッシュではなくペイントの入った頭の)兄さんがいて、出会い頭にお腹に蹴りを受けそうになってこうなった次第である。…さてどうしよう?


「キャラバンに戻るにしても、どうやってここから出よう」
「わわわわワタシは!命が惜しいぞ!」
「大丈夫!ワンダバの命はちゃんと守るから!」
「お、おお…なにやらとても虚しいのは何故だ」
「それにこの時代の兄さんと勝負してみたいってのもある!」
「やめろ苗字!頼むからやめてくれ!」
「そんなに私が騒ぎを起こすの嫌?」
「嬉しいはずがないだろうバカ者!」


でもこのままだとまったく身動きが取れないよ、とワンダバに言おうとした瞬間に個室の扉が音を立てて開いた。「…バカじゃねえの?」「「うわああああああああああああ!?」」「うるせえ!」どうやら会話は外にダダ漏れだったらしく、目の前には目つきで人を殺せそうなモヒカンボーイ。明らかに不機嫌なその顔にワンダバと二人で抱き合ってぎゃあぎゃあと騒ぐ。「どうしよう!?どうしよう!?明王の兄さんに殺される!」「…は?兄さん?」「お、おおおおおお落ち着け苗字!頼む痛い離してく、」ワンダバはもごもごと何かを言っているけれど頼りないのでスルー。どうしようどうしよう、流石に兄さんは私が敵うような相手じゃないような…いやでもまだ同い年ぐらいだし行けるかも…しれない?


「おい!」
「はい!なんですか!」
「俺にはお前みたいな怪しい妹はいねえんだけど」


――えっ?これ、もしかしてまともな会話が出来るフラグ?






(2014/03/09)

ブリザードやり直してたら無印二期が懐かしかったので。
あとここで出会う→からのフラグで不動ルートを繋げたいなと