天使たちの出会い

『いいか天馬、それに剣城。これにはお前たちの力も必要だ』
『え!?』
『……なんで俺まで?』
『名前の化身アームドは予想以上に強力そうだ。見ろ錦と霧野が吹き飛ばされてる』
『え、ちょ、あの人は一体!?』
『話は後だ!いいか、……おお!狩屋!やっと来たか!』
『ちょ!何ですかこのカオスな状況!え、あの人誰!?』
『狩屋、いいか―――あ、お前達は打ち合わせ通りに頼むぞ!』
『『『は、はいっ!』』』
『私に任せろ!よくわからんが!』


**


まさか蘭丸も錦も化身を使えるようになってたというのには驚いた。
ミキシトラ…ンス?というのはよくわからないけれど、錦は坂本龍馬らしい。


「まあ私が強すぎるってのも罪だよね?」
「くっ……!一年間の留学で相当レベルアップしとるぜよ!」
「僕らじゃもう手も足も出ませんよぅ!」
「ちゅーか、これ最早チートだろ苗字!」
「いや、俺達がまだまだだったって事……うわあっ!?」
「ほらほらよそ見してっと怪我すっぞー!まあ怪我なんてさせないけどね!」


蘭丸からボールを奪った後、バランスを崩して倒れる前に抱きとめる。蘭丸のバランスを訂正した後に再びドリブル。
出来るマネージャーですし何故これでサッカー界から許可が降りないのか疑問だ。
男だったら世界に行けるレベルだ、って不動の兄さんもフィディオの兄さんも言ってくれたのになー……
倉間を吹き飛ばしながら少しセンチメンタルな気分になったその時。横からボールを奪おうとする足。

顔を上げると、―――え、キャプテンマーク!?


「えーと、初めまして!俺、松風天馬です!雷門サッカー部のキャプテンで…」
「拓人ってば一年生のキミにキャプテンの座渡しちゃったの?って化身アームド!凄い凄い!」
「え、あの、その」
「へえ、キミの化身なんて名前?天馬君って言ったっけ?あ、私苗字名前だよよろしくね!」
「え、えーと」
「まあボールは渡さないけどね!―――ひゃ!?」
「人の話聞いてくださ……ッ!」


目の前の天馬君に集中していると思わぬ方向からの重力。つまりタックルされたのだ。
予想外の衝撃に戸惑って珍しい声が出る。うわ恥ずかしい、いや恥じらってる暇ないんだけど
芝生にどさりと倒れこむ。ついでに勢い余ったのかタックルしてきた影も一緒に倒れ込んできた。
ボールはころころと転がって、天馬君の足元へ。起き上がろうとするけど上に乗っている人影が私より先に反応した。

―――胸元にふみゅ、とした感触。


「……ひゃ?」
「―――――ッ!?」


思わず変な声が再び漏れた。
胸元に目線を移動させると、まあサッカーには邪魔だけどその辺の女の子よりは大きな自分の胸を掴むその手。
天馬君ではなく、黒い鎧を纏ったその手の主は明らかに混乱している。
ゆっくりと顔を上に上げた。そして見覚えのある顔にちょっとホッとする。

―――見事にゆでダコのような真っ赤な顔をされれば、こちらの羞恥心なんて消えてしまうというものだ。


「え、ちょ、……あー、剣城君、だっけ?」
「や、その!これはその!違くて!」
「えーと、離してくれないかな?ちょっと恥ずかしい」
「―――――!」


あ、耳まで真っ赤にしちゃってちょっと可愛いかもしれない。
どこのラブコメ展開だよとツッコミを入れたいけれど、こんな可愛い顔が拝めたんだから良しとしよう。
慌てて私の上から退く剣城君。先程までのクールな表情との差にギャップ萌えを見いだせそうだ。
あーいいもの見たな、なんて癒されながら私も起き上がる。

――その瞬間視界に入ってきたもの。


「剣城、いけないやんね〜。女の子の胸触ったら、ごめんなさいしないと」
「そ、そうだよっ!ほら先輩にちゃんと謝って!」
「う、うっせえ!事故だ事故!」


めっ、と言いながら人差し指を立てる小柄な女の子と、頬をピンク色に染めた小さな男の子。
某ゲームに出てきそうな容姿の男の子は、バンダナから出た髪を照れくさそうにいじっている。
女の子の方の頬はすごく白くてものすっごく柔らかそう。なにあれ触りたい


「ごめんなさいやんね、先輩。剣城もわざとやなかったみたいやし、許してやっ――ひゃあ!?」
「可愛い!ねえねえキミ何て名前!?うわほっぺた予想以上に柔らかい!可愛い!天使!」
「ちょ、ちょ先輩!?は、はなしてやんね?」
「やだ話し方も可愛いいいいいいいっ!」


飛びついて抱きしめてみれば体中も柔らかくて驚いてしまう。お持ち帰りしてもいいのかな?
す、と髪の毛に手を通してみる。さらっとした手触りにきちんとした手入れが伺えた。
やだ可愛い、すごく可愛い……!


「せ、先輩っ!黄名子が苦しがってます!」
「やだキミもすっごい可愛いいいいいいっ!」
「ふえええ!?」


ちょこちょこ、と歩いてきた少年もついでに捕獲して抱きしめる。天使しかいないのか!?
この女の子は黄名子ちゃんと言うらしい。可愛すぎる…!
そしてばたばたと私の胸に顔をうずめてもがく少年。ちょっとくすぐったいんだが。


「先輩ーっ!こっち、向いてくださーい!」
「可愛い女の子ボイス!どっち向けばいいのかなっ!?」


個人的声レベルにどストライクな声がグラウンドに響く。私が呼ばれていなくてもいい、振り向くぞ!
ゴールポストの前にピンク色のジャージを纏ったショートヘアの女の子が立っていた。
やだあの子も可愛い…!この子たちみんな一年生?天使しかいないの?


「こっち、来てください!苗字先輩ーっ!」
「やだ美少女からの指名!これは行くしかないねってことでまた後で黄名子ちゃんとピカ●ュウくん!」
「「わ、わ、わぁ!?」」


ぱっと手を離したからか戸惑う二人を置き去りに、全力でゴール前へと走る。
ジャージの女の子はもう目の前!……というところで見事に私を遮る青い髪の目つきの悪い少年。
ふむ、嫌いじゃないな。ちょっと声かけてみ―――


「は、『ハンターズネットV2』!」
「いきなり必殺技とかそりゃないぜ少年!」


必殺技で張られたネットは唐突過ぎて対応出来ない。
見事ハンターズネットに捕らえられて動きを封じられてしまう。
ホッとした表情の少年を見下ろしながら思う。化身アームドなんですよこちらは


「いや抜けられるんだけどね?」
「うわああっ!?」
「させないやんね!『もちもち黄粉餅』っ!」
「ごめんね黄名子ちゃんだっけ?捕まるわけにはいかないの!」


ハンターズネットを破り、繰り出されたお餅を華麗に避ける。
そしてすとん、とジャージの少女の横に降り立った。化身アームド解除。


「何の用かな?あ、名前教えてくれると嬉しいな可愛こちゃん!」
「ふええ!?えと、そっ、空野葵です!」
「葵ちゃんか!可愛い名前!よろしくね!


可愛いって言われた瞬間頬染めるなんて純粋な反応を堪能する。ああ可愛いっ!
しばらくもじもじと戸惑っていた葵ちゃんは、私と目が合うと決意したように頷いた。
多分私じゃないだろう。何なんだ?
まあ可愛い女の子がやることだったら大抵私は許すけれども。


「え、えっと……どうぞ!」
「うわ!?え、……かわいい」


差し出されたのは大きなくまの青いぬいぐるみ。……可愛い。
抱き上げてくるりと回転させてみる。……ふむ。
これくれるの?ありがとう―――と言おうとした瞬間だった


「やはり無理だ!このクラーク・ワンダバット様が抱き上げられるなどっ!」
「喋ったあああああああ!?」


しかも声低い!とりあえずゴールネットに投げ込んでおくことにする。



変態と天使たちの出会い

(剣城、……生きてる?)
(う、いや……!あれは事故だ!)
(……剣城、苗字の胸すっげー柔らかかったろ?)
(瀬戸先輩っ!?)
(私も触ったことあるけど……やわらかかった、でしょ?西園くん)
(……はうぅ)
(剣城は自分から触ったもんなー?)
(うわああああ!やめてください!)


(2013/02/05)