練習試合の次の日


「俺は剣城だと思います」
「俺も。剣城はやるときはやる、決めるときは決める」
「やっぱり天馬も霧野もそう思うか。俺もどちらかというと剣城…だな」
「………俺は名前に賭けるね」
「ええええ!?倉間先輩は苗字先輩なんですか!?大穴ですよ!?」
「僕も苗字先輩に賭けておきます」
「輝まで!?えええ…ちょっと俺自信無くなってきた…」
「おいおい何揺らいでんだよ天馬!男ならしゃきっとしろ!度胸だ度胸!」
「水鳥ちゃんは…剣城くん?」
「そりゃお前、そういう場面では………お、男からだろ」
「おおお、顔赤くして純情じゃのう」
「うるさい黙れ錦!茜もニヤニヤすんな!」


………。


「なんだ、これ……」


すっかり入るタイミングを逃してしまったミーティングルームの前で、思わず体を壁に押し当てていた。自分の名前と、最近やっと想いが通じた一つ年上の少女の名前が上がったことにより気まずさと気恥かしさと混乱がヒートアップ。

いや、そもそも昨日の今日で、俺と名前さんが付き合い始めたという情報がそんなに早く出回るはずがない。…と、思う。少なくとも俺は誰にも言っていない。…いや、兄さんに『嬉しそうだな、何か良いことでもあったのか、京介?』なんて聞かれたそれはノーカウントでお願いします。否定はしなかったけど肯定もしなかった!



「…よしみんな、入れた?」
「入れたー!ちゅーか、絶対倉間は後悔するだろ」
「浜野お前なあ…あいつに俺がどれだけ、」
「でも苗字先輩って剣城君に対しては乙女ですもんね。以外と有るかも。僕変えようかな…」
「おおおおい輝!?自信無くなるからやめろ!」
「ところが二人共残念!もう締め切ったからな!」


霧野先輩の高らかな笑い声。「大丈夫だ輝、お前が負けた分は先輩だから倉間に払わせる」その後響いた声にお前ええええ!と叫ぶ倉間先輩の嘆きの声。とりあえず倉間先輩の財布が狙われているということは理解出来たけれども。「じゃあ、後は剣城か苗字先輩を待つだけだね!」西園の声にびくりと体が反応した。「そろそろ来てても良い頃じゃない?」すぐそこにいるなら呼んで来ようかな、と楽しそうな足音がこちらに近づく。えっ、おい、ちょっと待てよ流石に逃げたら足音でバレ、



「お、剣城おはよーっ!…何してんの?」
「「「剣城!?」」」
「――ッ、名前さん、馬鹿なんですか!?」
「えええええ!?」


なんで出会い頭に罵倒されたの!?と戸惑う名前さんにあああああ!と頭を抱えたくなる。なんて空気の読めない登場…!「ご、ごめん剣城…いやサッカー棟に入って一番に会えたのが剣城だったから、」嬉しくてつい、なんて言葉はこの場で言わないで欲しかった。へらへらとした笑顔と共に吐き出された言葉に思わず脱力する。「い、いえ…俺もその」おはようございます、と返そうとして言葉に詰まった。背後から聞こえるこれはなんだ。


「……名前がきめえ……」
「倉間、それは流石に……うぇっぷ」
「霧野先輩!?俺の上で何不穏な声出してるんですか!」
「狩屋の上だからだよ……あっこれやばいかもしれない」
「きききききりのこれはゆゆゆゆゆゆめだよなわるいゆめめめめめめ」
「す、すごいね剣城!俺、尊敬する!」


少しだけ距離を開けてきた天馬に酷く心が傷つけられたんだがどうしてくれよう。そして何故名前さんは照れくさそうに笑っているのだろうか。「え、だって照れくさい…から」「……倉間先輩、この人誰ですか?ちょっと俺も気持ち悪いとか思ったんですけど」こそこそと近づいてきていた倉間先輩に小声で話しかける。


「大丈夫だ剣城…お前の反応は正しい」
「や、でも可愛いし嬉しいとも思いました」
「お前はやっぱりおかしい!」
「いや、でも…見た目だけなら完璧…美少女が恥じらってるわけだから…」
「霧野先輩帰ってきてください!?」


うつろな目で名前さんを見つめてそんな事を言い出した霧野先輩を狩屋が必死で揺すりはじめた。――もう一度言おう。なんだこれは。


「賭けだよ」
「…賭け?」


おはよう、と片手を上げて俺の目の前に歩いてきた輝の笑顔に不穏なものを感じる。


「そう。昨日の練習試合の後、―――二人がキスしてるの見たんだってよ!茜が!」
「……倒れた名前ちゃん…お姫様抱っこで運ばれた保健室…二人きり…!」
「っな、なん、それ!?」


輝の後ろから飛び出してきた瀬戸先輩と山菜先輩の言葉に思わず赤面して頓狂な声が出た。「流石に撮るのは躊躇った…」「茜を褒めてやってくれ、自重したんだ」何故そこで褒めることを要求されたのか俺にはまだ理解出来ない。

「あああもう!僕達が知りたいのはそんなことじゃない!」不意に信助の声が響いたから驚いてそちらを向いた。「剣城…じゃなくて苗字先輩!」「ん、なに?」信助にもめっぽう弱い名前さんは呼ばれたことにより心底嬉しそうな笑顔で反応する。…無償に止めたい気持ちに駆られるのは背中に走った嫌な予感故か。



「おい待っ…」
「キスはどっちからしたんですか?」
「私かな!」


て、と言い終わる前に信助の上目遣いになんなく陥落された名前さんは即座に笑顔で切り替えした。途端に上がるブーイングと倉間先輩の歓喜の声を多分俺は一生忘れない。



いいですよ、そのうちきっと俺が出し抜くようになるんです

(倉間先輩と輝はどうやら賭けに勝ったらしく)
(駄菓子を大量に抱えて家路に着いたそうな)

(2014/01/04)

グダった文章ですがこんな感じの最終回もありかなーみたいなの考えてました。
ちょいとグダグダしすぎたので後日談。