おかえりなさい
※剣城視点


「おおー!久しぶりぜよ!おまん、やっと帰って来たんか!」
「そーなんだよ!いやー、ついつい帰る日忘れちゃっててさー!」
「どーりでおまんだけ帰ってきてないと思ったぜよ!がーっはっはっは!」
「ぶっちゃけ雷門校長に連絡貰ってなかったら帰るの忘れてたんだよなー!」


がーっはっはっは……と二人分の豪快な笑い声が響く。
錦先輩とがっしり肩を組んで声を競うように笑う、その笑顔が……まあ、多少眩しいと思わない事もない


「……剣城、その、迷惑かけたな」
「いえ。……ところであの人は?」


どこか疲れたように俺の肩に手を置いて、話しかけて来たのは霧野先輩だ。
先程の騒動の事を言っているのだろう。多分あの時二人が来なかったら俺はどうなっていたことか。
残念には思わない。いくら顔が綺麗でも押し倒されるのはごめんである。

――それより知りたいのは、豪快な笑い声を響かせるその人。


「苗字名前。雷門の二年で、錦と同じ留学組だ。留学してた先は違うがな」
「で、サッカー部のマネージャーの一人だ。まああの通り、……なんというか」
「ただの変態だから気をつけろよ、剣城」


霧野先輩と神童先輩に続いて会話に割り込んで来たのは倉間先輩だ。…顔が青い
帰ってきたあぁぁ……と小さく呻いているのが耳に届いた。なんだ?


「倉間先輩、どうかし」
「おー!倉間ァ!久しぶり!相変わらずちっこいね!サッカーやろうぜ!」
「こっち来んな変態ィィィィィィィィィ!!!!」


声をかけようとした瞬間、くるりとこちらを振り返って倉間先輩をロックオンする苗字…?先輩。
そして試合中にも見せないような恐ろしい速さで脱兎の如く逃げ出した倉間先輩。
これだけで二人の力関係が分かった気がした。絶対これ獲物と捕食者だ……。


「ほらほら!一年でどれだけ成長したか見てやろーじゃん!」
「やめろ触るんじゃねええええええええ!」
「おーおー倉間のくせに生意気な……っらあ!」
「おー!見事なジャーマンスープレックスぜよ!」
「いや見てないで助けろよ錦!くそ、『ディープミスト』!」
「蘭丸っち何それ新しい必殺技!?やだかっこいいー!」
「顔とセリフが合ってねえっちゅーの!なんだよその狩人の目は!」
「攻略する気満々じゃないですかぁ!」
「とーぜん!最強はこの私だァァァァ!っらあ!」
「ディープミストが破られたッ!?」
「狩屋を呼べ!それか菜花のもちもち黄粉餅で苗字を捕まえろォ!」


「神童先輩、……その」
「剣城、他の一年はまだ来てない。……見なかった事にしてくれ」
「…………えーと」
「ついでに頼む、名前を取り押さえてくれ。俺も化身出すから」
「そこまでするんですか!?」
「あれを見ろ、霧野のディープミストだけじゃ歯が立たない」


あ、倉間先輩がディープミストの巻き添えになって弾き飛ばされてる


「ミキシトランス!『ジャンヌ』!」
「おおお何それ!?何それ!?蘭丸っちがふつくしくなった!」
「ちょ、霧野流石にそれはマズイぜよ!」
「まずくないまずくない!どーんと来いよ!受け止めてやる!」
「何でそこだけ器がデカイんじゃおまんはァァ!?」
「言ったな?いくぞ!『ラ・フラム!』」
「おおお!炎だー!すっごい蘭丸っち超イケメンだYO!」
「この炎、お前に越えられるか!?」
「勿論!私が留学で何も学ばず帰ってきたと思うなよ!」


襲い来るラ・フラムの炎を恐ろしいまでの俊敏さで避ける苗字先輩。
……いや、俊敏さだけじゃない。確かに存在するテクニックは相当なものだ。
そのまま霧野先輩を翻弄しながらにやりと口端を釣り上げた苗字先輩の背から吹き出す闘志。


―――真っ黒な炎を思わせるそれは、見覚えのあるもの


「な、それは……!」
「おいで!『魔女クィーンレディア』!」


宣言する声と共に全身から闘気が噴き出し、結晶していく。妖しい光を放つ目が先輩と共鳴するかのよう。
完成したのは―――魔女クイーンレディア。


「化身を使えるようになったのか?」
「そうだよ!凄いでしょ?褒めてもいいのよ?」


霧野先輩の驚愕の声に、妖しい光をころっと打ち消してにかーっと笑う先輩。
そのままくるくると回転してみせる。クイーンレディアもなにやら楽しそうだ。
唖然とするメンバーをそのままに、ぴたっと動きを止めた先輩。


「じゃっじゃーん!『アームド』!」


大声で言い放った先輩の気合に呼応してクイーンレディアが幽美な鎧となり、彼女の体を覆う。
―――化身アームドの完成だ。


「ど!う!よ!これが一年間の修行の成果!」
「すっごいぜよ!流石名前じゃき!」
「さあかかって来いよ!サッカーやろうぜ!」


苗字先輩の化身アームドのドリブルで速水先輩達まで巻き込まれて吹き飛ばされ始める。
霧野先輩と錦先輩は楽しそうにしながらも冷や汗をかいて自らの化身を出した。
グラウンドは混沌とした状態。正直近寄りたくない


「……神童先輩」
「剣城、もう止めようとは言わない。今すぐ西園に連絡取れるか?菜花でもいいから―――おぉ!」
「おはようございます、遅れてごめんなさ―――へ?」
「おっはよーございます!……え?」
「おはようやんね〜……あれ?」
「おはようございま……これ、一体?」
「な、なんだなんだ!?なんだこれは!?」
「ど、……どうなってるの………?」


ばたばたと走りこんできたのは天馬、信助、菜花、空野、瀬戸先輩、山菜先輩だ。
続いてフェイとワンダバが走り込んでくる。
良いタイミングだ、と小さく神童先輩が呟いたのを俺は聞き逃さなかった。


「信助、菜花、空野、ワンダバ!お前達にしか止められないんだ、やってくれないか?」
「「「へ?」」」


――嫌な予感が背筋を通って汗となり、たらりと落ちた。



暴走娘よおかえりなさい

(いいか?……)
(へ?それウチらに出来るやんね?)
(大丈夫だ、特に信助と菜花を見ればあいつは絶対に止まる)
(そこへ空野が追い打ち、最後がワンダバ)

(サッカー棟が破壊される前に頼む!)

(2013/02/03)