クリスマス番外


ぼんやりと、ああこれは夢なのか、なんて考えた。
それぐらい目の前の光景には現実味が感じられない。


「剣城、おはよう」


初めてみる大人っぽい私服に身を包んだ名前さんが、にかりと笑って玄関の前に立っていた。「クリスマスだから、誘おうと思って」一緒に遊園地に行きませんか、寒いけど!と少し照れくさそうに手を差し出してくる。カレンダーを見やると24日で、予想外の誘い文句に頬が熱くなるのを感じた。


「そんなの、断るはずないじゃないですか」
「……うん」


知ってたよ、と嬉しそうにする名前さんをリビングに招き入れる。クリスマスなのだからと一時的に家に帰宅している兄さんが驚いた顔をした。当然、俺に兄がいるということを多分知らなかったのだろう名前さんも驚いた顔をしていた。次いで両親が京介!?と驚いた声を出した。気恥かしさを感じながら急ぎ足で、でも音を立てないように階段を駆け上がる。服、買っておけば良かった…!


**


「へえ、名前ちゃんもサッカーやってるんだ」
「普段はサポートですけど、いつかは世界で戦いたいんです!」


お待たせしました名前さん、と言おうとして覗き込んだリビングのテーブルでは、兄さんと名前さんが向かい合って楽しそうに会話をしていた。「お、京介」「あ、剣城!」お茶頂いてます、と楽しそうに笑う名前さんに、複雑な気持ちが湧き上がる。


「お待たせしてすみません、名前さん」
「いいっていいって!へえ、剣城の私服って初めて見たけど…あれ、剣城なんか不機嫌?」
「いや、そんなことはないですけど」


不機嫌ではない。断じて不機嫌ではない。だって兄さんのことはとても好きだし、ならば好きな人と好きな人が楽しそうに会話をしていたからとて不機嫌になるなんて有り得ない。……しかしとても絵になると思ってしまったのは事実だ。名前さんはもしかしたら、俺と釣り合っていないのかもしれない。兄さんの方が余程、


「ああ京介、お前、俺が名前ちゃんの事下の名前で呼んでるのが気に食わないんだろう?」
「え?」
「なるほど流石優一さん!……えっ何それ剣城私嬉し」
「い、いや!?兄さん違う!そっちじゃない!いやそっちも気になるけど!」
「気にするな京介、そんなこと大した問題じゃないだろ」
「そうそうそう!だって、ねえ?」


「名前ちゃんは俺の"妹"になるんだし」
「優一さんは私の"お兄さん"になるんだし」


見事に息の合ったタイミングで目配せし、そんな事を言い放った二人。心臓が驚く程に飛び跳ねた結果、何故だか体が異様に寒さを感じていることに気がついた。ぱちり、目が開く。名前さんと兄さんが掻き消えて、視界には見慣れた天井が広がった。


「…………夢、か………!」


**


ぼんやりと、ああこれは夢なのかな、なんて思っている。
でも肌で感じ取る寒さは余りにもリアルだ。


「おはようございます、名前さん」
「お、おはよう…剣城」


思わず応えてハッとする。「ご、ごめん!寝起きで!」玄関のチャイムの音でとても気恥ずかしい、でもとても嬉しい夢から目覚めた私は祖母に言われるがまま玄関に降りてきた。そうしたら剣城が白い息を吐き出しながら優しい笑顔で立っていたのだ。油断していた私は呆けるばかり。おばあちゃんも剣城なら剣城って言ってくれたらよかったのに!せめて髪の毛ぐらいなんとかしたくて、思わず手で撫で付けてしまう。そんな私を見て剣城が目を細めたから、寒さなんか吹き飛ばしてしまいそうな熱さが体中に巡る。恥ずかしくて死んでしまいそう。


「ど、どうしたのこんな朝早くに」
「今日、何の日か知ってます?」
「今日…?今日は24日……あ、」


メリークリスマス、とどこか苦笑気味に告げられる。「せっかくだからどこかに行きませんか?…チケットはありませんけど」何それ、さっきまでそんな感じの光景を見てた気がするんだけれど気のせいかなあ。(…あれ、少し違う?私が誘っていた気がするけど、現実は剣城から誘われている。)とにかく、それはとても魅力的なお誘いだった。「うん、行きたい!」頷くと剣城を手招きする。「着替えてくるから上がって待ってて」おばーちゃん、剣城にお茶出してあげてー!と叫ぶ名前さんに珍しく、子供っぽさを感じた。






(さあ、二人でどこへ出かけよう)

(2013/12/23)

メリークリスマス!完結手前なのでかなり仲良し。
きっと遊園地デート。