ハロウィン番外


結構こういったイベントで一番盛り上がるのは彼女だと思っている。お祭り騒ぎの中心に居るとでも言おうか。あらかじめ『好きそうだな』と思うような定番の菓子を購入し鞄に忍ばせ部室へ向かうと、ミーティングルームから予想通りの人影が飛び出してきた。ポケットから飴玉を零しながら名前さんは叫ぶ。


「剣城ーっ!トリックオアトリック!」
「ああ、お菓子ならここに―――って、は?」
「悪戯させて!させてくれないんならする!」
「どんな我儘ですか!?」


**


「流石にああ来るとは……」
「すまん剣城、さっきまでは通常通りだったんだがな……」


神童さんが遠い目で名前さんを見やる。「いやあ、こういったイベントになるとあいつは手が付けられなくなるから、"少し多めに"俺と霧野と倉間が持ち寄った結果がこれだ」三人は名前さんにつまり貢いだらしい。三年生、他二年生も対策を練っていたらしく、かぼちゃやイモ等、お腹に貯まる類のお菓子を名前さん用に持ち寄ったんだとかなんとか。満腹ご満悦になった名前さんは一年生を悪戯と評して襲いにかかったらしい。今は満腹効果かなんだか知らないが、監督が来るまで寝かせてと言い放ち床に大の字を描いて眠っているのだが。(ここまで来るといっそすがすがしい)


「で、お前は何をされたんだ」
「背中にこれ、突っ込まれました」
「……こんにゃく……」


結局抗えなかった俺は名前さんの悪戯(という名の罰ゲーム)を素直に受けてしまったのである。背中に滑りこんできたその感触に思わずひっ、と普段は上げないような声を上げたのをしっかり聞かれ、頬が熱くなるのを感じる頃には名前さんは大喜びでそれはもう子供さながらにきゃっきゃとはしゃいでいた。ちなみに女性陣からのお菓子は別腹だと踊っていたのは記憶に新しい。ブレイクダンスに巻き込まれた狩屋もミーティングルームの隅で信助にぺちぺちと頬と叩かれているので一応合掌。生き返れ狩屋。

今回は悪戯を回避した神童さんに去年の事を聞いてみると、そりゃもう恐ろしかっただのなんだのと帰ってきた。何も考えていなかったのであろう、浜野先輩が名前さんにトリックオアトリートをかましたところ、一瞬で沈められたという。手作りのクッキーのその味は口の中で火山が爆ぜ大波が荒れ狂い…と、ここまで語ってくれたところで神童さんは顔を青くさせたのでもういいですと断っておいた。悪戯のレベルが冗談じゃない。本気でやれば美味しい物を作れるのに、名前さんはどうして別方向に本気を出すんだろうか。

………。


「…ま、それがこの人か」


結局はそれだ。――振り回されるとしても、名前さんなら嫌じゃない。さて、こんにゃくのお返しはどうしたら良いだろう?悪戯心が湧いてきて思わず口端が釣り上がるのが分かる。ううん、と小さく名前さんが寝ぼけて唸った。俺もトリックオアトリックで行こうかと思います。文句は認めない。



いたずらといたずら、さあどっち?

(そういえば仮装って無いんですか)
(今日は普通に授業があったし今から練習もあるし、自重したらしい)
(良識があるんだかないんだか…)

(2013/10/31)

短いですが滑り込んだよやったね!