ただいま帰りました
「……おー!全然変わってないな!丸一年ぶりの雷門中!」


ちらほらと朝練に向かう生徒が目立つ、早朝の雷門中正門前。
健康的に日焼けした肌と整った顔立ちからか、周囲からの羨望の眼差しを浴びる少女。


「さーてと、アイツらは練習してんのかな?とりあえずサッカー棟行ってみよ―――!」

……その美貌が台無しになる大声と決めポーズ。そのまま雷門校内に走り出す少女。
それさえなければ、羨望の眼差しは可哀想なものを見る目にはならなかっただろう。


**


※剣城視点

普段より数十分程早く、目が覚めたのだ。
だから普段より数十分早く家を出て、普段の道を通って、――学校に着いて。
まだ一年メンバーは来ていないだろうから、自分が朝練の準備でもしよう。

―――そう思って部室に入ったら、だ


「お!君サッカー部?目つき悪いけどいい子なのかな?初めましてHEY!」
「…………………は?」


扉が開くと同時に目の前に飛び込んできた、自分と同じぐらいの背丈の影。
底抜けに明るい笑顔と、……整った顔に一瞬見惚れてそして戸惑う。
サッカー部にこんな少女はいない。何かのイタズラでもしに来たのか?それとも――


「おっと失礼じゃないかい?ミーは怪しくないよ?サッカー部のマネジよ?」
「…………………へ?」
「むー、あんまり喋らないクールボーイなのかな?私の事知らないんなら一年生かー、若いねー羨ましいっす!」
「…………………だ、」
「あ、あれー?どしたの?朝弱いの?起きてる?なんなら一発ヤろっか?」
「誰ですかアンタ!?ってはァ!?な、何を!?」
「サッカーに決まってるじゃないBOY!」


ここはサッカー部じゃない!とサッカーボールを差し出される。これはどう考えてもツッコミが足りていない
くそ早く誰か…!せめて狩屋!それか倉間先輩!霧野先輩でもいい、ツッコミを早く!


「それとも君、サッカー部じゃないの?見たところFWっぽいけど」
「ちょ、待っ」


こちらの質問に答える様子は皆無。そして自分も質問に答える余裕がない
差し出されるサッカーボールはともかく、じりじりと詰め寄られて壁に追い込まれているのだ
顔が近い!……どこからともなく良い匂いがするのは気のせいだと信じたい。
必死で後ろ向きに足を動かす。背中にとん、という軽い衝撃。―――追い詰められたァ!?


「サッカー部ならボールで語り合おうぜ!」
「意味わからないですってば!」


――――ぐいぐいと近づいてくる整った顔に、一瞬思考がフリーズした、その瞬間。


「………名前!?」
「あ!お久しぶりだね拓人っちに蘭丸っち!ワタクシ苗字 名前」


一年間の留学より、ただいま帰りました!



変態、ただいま帰りました

(おま、連絡も一つも寄越さないでよく生きてたな!)
(ハッハッハ蘭丸君よ、ミーを誰だと思っているのかね?)
(ところで何で名前は剣城を押し倒してるんだ?)
(ああ、勢い余っちゃったのかな?ところでこの子誰?)

(それ俺が聞きたいです)

(2013/01/31)