友人Kは語る
※倉間視点

「なあ倉間、聞いてよー……」
「なんだ、珍しく落ち込んでんな?明日は雪か?」
「今はバリバリ春ですけれども?」
「分かった。俺が悪かった。話を聞くから拳を下ろせ」


俺が心配するレベルで今日の名前は落ち込んでいるらしい。すぐに鉄拳制裁に移ろうとする姿勢はいつもの事だが、拳の構えが普段と違う。弱そうなのだ!こいつがこんなに落ち込むなんて怖すぎる。明日雷でも降るんじゃないか…!?降る前に名前の意気消沈の理由を見つけて普段の変態に戻ってもらおう。俺の明日の安全のた――


「……なんかね、剣城がね?仲良くなれたと思ったのにさ、なんかいきなり冷たくなって……それがなんか、すっごい寂しくて」
「――――――は?」


―――……名前が恋愛相談して来たァァァァァァァァァァ!?

っ、おい、明日雷で済むのか!?また未来から襲撃とか来るんじゃねえのか!?も、もしかしたらこれは俺の夢なのか!?そうだ、夢だこれは夢だ。目の前で目を伏せている普通に美少女に見える女が俺の天敵の猛獣系変態なわけがない。嘘だ。誰か嘘だと言ってくれ。だってこいつ部室の大掃除の時にミーティングルームのソファーを両手に一つずつ持ち上げてスキップしてた女だぞ!?そんな名前が剣城に、恋……だと?いや、多分これ本人に自覚ねえな!そして剣城が冷たくなった、というのは恐らく一昨日からの剣城の様子の事だろう。一昨昨日の剣城と俺の会話が伏線だったというのか!あの日から妙に剣城が名前を意識して近づかないようにしていたのは多分、本人たち以外の全員が知っている。そしてそれが剣城の照れ隠しだという事も全員承知済みだ。確かに剣城は名前にそっけなかったが、顔は常に赤かったのだ。だから俺達も呆れつつ微笑ましく剣城だけを見守っていたのだが。――どうしよう、俺一人じゃ対処出来ないから三国先輩を呼んでくれ。もしくは先輩の天敵南沢さんでもいい。大騒ぎになってもいいからマジで助けてくれ俺を!


「声かけても無視されちゃうし、ブツブツ一人で何か言ってて、私の顔見るとすっごい驚いてどっか行っちゃうの。別に今までなら気にしなかったけど、なんか剣城だと――こう、モヤモヤしてるんだ。ねえ倉間、私どうしたらいいかな」
「あー……ああ……」


『声かけても無視』これは明らかに剣城がお前の事しか考えてないからだろ?『ブツブツ一人で何か言っている』ああ、好きとか好きじゃないとかブツブツ言ってたな!『名前の顔を見ると驚く』そりゃあ四六時中考えてる意中の本人がいきなり目の前にいたら誰だってビビるだろ。『どっか行っちゃう』間違い無く照れ隠しです、本当にありがとうございました!


「ちょっと、聞いてる?必殺技ブチかますぞ?」
「過激な発言はやめような?つーか何で俺に相談したんだよ」
「倉間みたいなタイプが一番相談に親身になってくれるからだよ。…あと脅せば言う事聞いてくれるし」
「おい最後の小声!それ本音だろお前!」
「あっバレた?」
「ダダ漏れじゃねえか!」


しかし言われた通り。名前に与えるアドバイスはもう既に言葉として組みあがっていた。……が、一瞬で言う気を消失。こいつはもっと悩めばいいよ。そうだ、これを期にお前は剣城に女にしてもらうといい。変態じゃなく普通の女に。そのためには俺が迂闊な事を言うべきではないと思うし、もう言うつもりがほぼ消え去ったし。あ、もちろん本音は後半だ。当たり前だろう?「聞いてもらってすっきりしたよ!」と少し先程より明るい笑顔を見せた名前に薄く微笑んだ。頑張れ剣城、道は遠いぞ。こいつは鈍感っつーか鈍感とはちょっと違う種類の手強いタイプだからな。




変態の理解者、友人Kは語る

(―――頑張れ)
(え、それ私に言った?)
(は?違うに決まってんだろ)
(うわ、なんかムカつくからボール蹴っていい?)
(何で通常装備なんだよ!)

(2013/04/27)

南沢さんと絡ませられる日は遠そう。