遠くないです…よね?
※剣城視点

『ヘイらっしゃァーイ!!!雷雷軒へよォ〜こそォ!空いてる席どこへでもどうぞォ!ご注文お決まりでしたらお声かけくださ……って天城さんに信助に狩屋君じゃん』
『………苗字先輩、何してるんですか?』
『何ってバイトよバイト、アルバイト。お金は貰って無いけどな!ほらお客さんだろ席にどうぞォ!ヘーイ店長!お客様三名様ご案内ィーッ!』


**


「って事があったんだけど、剣城知ってた?」
「いや、バイトしてるってのはこないだ聞いたけどまさか雷雷軒とは……」


すっごい手馴れてたよ、と信助が呟く。なんというか……雷雷軒の店内をラーメン持って走り回る先輩を想像すると、その姿はやたらと馴染んでいた。というか部活やった後?どんだけ体力有り余ってんだよあの人。


「剣城、今日にでも食いに行けば良いド」
「なっ!?何言ってるんですか!?」
「好きなんだろ〜?剣城って変わった趣味してんよなあ、まあ顔だけならレベル高ェけど」
「別に俺は顔で……なんでもない」


ニヤニヤする狩屋の顔を見て地雷を踏むのを踏み止まる。本当、別に顔が好きってわけじゃなくこの間白竜に言われたように胸が好きなんじゃなく、というか好きじゃない!好き……ではない。気になるというか、甘やかしたくなるだけだ。うん、決して恋愛感情ではない……はずだ。だと思う。ぶっちゃけそうであって欲しい。人間的にはなんだかんだ好きだと言い切れるのだから。
しかし働く先輩の姿にはとても興味が湧いた。今日の帰りにでも覗いてみるか、と頭の隅を煩悩が過ぎる。


「でも、『お金貰って無い』って何なんだろうねー?あんなに大きな鍋とか机とかいっぱい運んでたのに。出前にも走ってたよね?」
「中学生はバイトが出来ないド。手伝いって事じゃないド?」
「雷雷軒の店長さんってあんまし先輩に似てないですけど……」


うーん、と首を捻る信助と天城さんと狩屋を放置して荷物を纏めた。よし、今から行ってみよう。


**


「ヘイらっしゃァい!!一名様ご案内ィィィ!!空いてる席にどうぞォ!ご注文お決まりになられましたらお呼びつけくださ……えっ何で剣城と天馬君がここに居んの?」
「気がつくの遅いですよ」


完全に板についている先輩の姿になんだか緊張だとか、色々なものが吹き飛んだ気がした。そう、緊張していたのだ。結局は一人で来るのもなんだという事で天馬に『奢るから』と言うと快く着いてきてくれたのだが、それは無駄だったかもしれない。さらば俺の千円札。


「なーんだ、剣城ってば苗字先輩に会いに来てたんだ」
「……別に」
「もうもう、照れなくて良いのに!」
「う、うるさい!腹減ったからさっさと食おうぜ」


カウンター席に二人で並んで座り、先輩がさらりと「お冷どうぞ」と差し出してくれたグラスを受け取った。……あとに、その動作が本当に自然なもので少し驚いた。なんだか先輩が大人に見える。冗談じゃなく。天馬も同じ気持ちになったらしい。気がつけば二人して先輩をじーっと見上げていた。


「……ん?どうした……どうされました?」
「「………………」」
「ふ、二人とも?」


そんな様子を店長さんに見られていたらしい。低いが、しかし良く通る声で「おしぼり」と一言言うと先輩は成る程と納得して厨房に走り込んでいってしまった。
その後天馬は餃子を、俺はチャーハンを食べたが美味いチャーハンの味はあまり俺の舌に残りはしなかった。ピークの時間を迎えたとき、先輩の顔は普段と同じように輝いていた。店長さんと笑い合う先輩がなんだか遠く感じた。



別に遠くないです…よね?

(そういえば雷雷軒の店長さんはまだ若くて)
(なんだか先輩とお似合いなのかもしれない、と思った)

(2013/04/19)
正式なお給料ではなく、お小遣いと称してお金を貰っている模様
ちなみに夢主は基本的にお金は貰ってないと言ってます
そのあたりももう超次元だからきっと許される(