言葉を省略するんですか?
※剣城視点

「ちょ、ちょっと心揺らいじゃっただけなの!私には貴方が一番なの!」
「………」
「わ、私の性格知ってるでしょ?だったらちょっとぐらい寛容してくれたって…」
「……あの、先輩」
「第一にあれぐらいで怒るなんて思ってなかったんだもん!もっと心が広いと思ってたのは私だけだったんだね!?」
「……あのー、先輩、その!」
「っ、分かったよ!私が、私が悪かった!だから本当お願い、許して…!」


「クイーンレディア!」
「自分の化身に土下座しないでください!」


おい白竜何ぼーっとしてんだ!お前もガキ共の目塞ぐの手伝えよ!こんな光景子供に見せたら駄目だろ!


**


「……まさか自分の化身に裏切られる日が来ようとは」
「どっちかって言えば裏切ったのは先輩ですよね」


あの後、勝負は一瞬で終わった。本当に文字通り一瞬だった。勝ったのは白竜。
先輩の『引っペがす』発言の直後。二人はボールを巡って激突した。――そう、激突したのだ。
そして衝突するほんの直前。先輩の化身アームドがするりと解けた。


『……へ?』
『貰ったァ!』


パワー切れではない化身の解除。その状態になら当然この人だって戸惑うだろう。
そして白竜なその隙を見逃さなかった。結果、勝利。
その後化身アームドどころか化身すら出せなくなった先輩は四苦八苦してなんとかクイーンレディアを呼び出した。……のだが。
なんとそのクイーンレディアのせいだったのである。自分の主人が他の化身に浮気したのが許せなかったらしい。まったく、だからって公共の面前で不倫がバレた女みたいに化身に謝罪しないで欲しい。


「だって!だって一回ぐらいシャイニングドラゴンさんみたいな格好良いドラゴンつけてみたいじゃん!ね!?」
「分かる!かっけえよなお兄ちゃんの化身!」
「そ、そうか?なかなか見所のあるヤツらだ」
「おい白竜調子に乗るな」


お前らもおだてんな、と子供達にも釘を刺しておく。そんなにシャイニングドラゴンはかっこ……良いな。うん。認めよう。デカいしロマンに溢れている。
しかし、それならば俺のランスロットだって白竜に負けないぐらい良いと思う。自分の化身だから贔屓している?贔屓して何が悪い。
第一子供受けなら松風だろう。ペガサスアークはブロマイドがこの間売られていた。……山菜先輩の家で。しかもそれなりにお手頃価格だったから小学生が買っていたのを見たぞ俺は。
なのに何故先輩は白竜の化身を……つうか白竜、馴れ馴れしく呼び捨てしてんじゃねえよ


「なんだ剣城、やけに不機嫌そうだな」
「………別に」
「な、なんだ?怒っているのか?俺が勝ったのが不満なのか!?俺はお前をこんなにも大事に思っ」
「もう黙れ!喋るなお前は!」


色々誤解される!……あっ先輩、何俺達見て顔輝かせてるんです?変なものに目覚めないでくれますか先輩。流石にフォロー出来なくなります俺。


**


「………で、そんな事があったから帰るのが遅くなったと」


先輩が白竜にリベンジの約束を取り付けて雷門に帰ってくると、案の定(元)キャプテン様は相当にお怒りだった。ちなみに先輩は正座させられている。俺は立たされている分楽である。うん、流石は神童先輩。どちらが悪かったのか良くお分かりでいらっしゃる。


「ご、ごめんってば拓人っち!とりあえず剣城は悪くないから怒るなら私だけにしてぴょん?」
「ぴょ、ぴょん…?と、とにかく!良く分からんがもう夕方だぞ!なのに白竜とサッカー勝負だなんてお前は…!」
「違うよ神童!剣城を賭けたゲームだったんだよ!……負けたけど」
「――お、お前白竜に負けたのか!?」
「だってまさかクイーンレディアが機嫌悪くするなんて思わなかったんだもん」


へらーっと笑う先輩。でも楽しかったよ、と多分俺にしか聞こえない声が呟いた。ぴょんの意味は分からないが。もう一度言おう。ぴょんは意味不明だが。
しかし俺を賭けたゲーム、だなんて響きだけ聞いたら絶対に誤解されるよなこれ。先輩も白竜も本気で言ってるんだろうからタチが悪いと思う。
そしてまあ案の定、嫌な予感は的中するわけで。


「名前ちゃんと……白竜君が……剣城君を賭けたゲーム……!?」
「そ、それはアレか!?き、ききき禁断の」
「剣城!先輩が負けたって事は白竜と付き合「違う!違うから黙れ西園!」


俺の大声虚しく西園の声はグラウンド中に響き渡ってしまったらしかった。直後呆然とした三国先輩の顔に倉間先輩のシュートがぶつかった。
その後、何故だろうか。俺と先輩ではなく俺と白竜の間に生まれた関係についての誤解を必死に解くために俺は二時間を消費したのだが、それはまた別の話。



どうしてそんなに言葉を省略するんですか?

(誤解を解く方の身になってください)
(ああもう!……なんで俺、こんな人の事に気になるんだ)

(2013/04/13)

次は夢主のバイト先編。