恋愛感情ではないよ


サッカーの事は分かっても恋愛事はよくわからないし、多分知識も乏しいのだと思う。
惚れた腫れたもまだ良く分からないのはまだ俺が中一だからだろうし、まだ分からなくても良いと思う。
今は大事な時期だしサッカーに打ち込んでいたいと思っていたのだ。


―――最近、その考えは揺らぎつつある。


「んー、チョコにイチゴにクランベリーにバナナに……フルーツミックス?ジャイアント?ナタデココ!あ、抹茶!」
「まだ決まらないんですか」
「プリンデラックスってのも気になるしたっぷりベリーも美味しそうだしコーヒーゼリーも捨てがたい…!」
「もう20分ぐらい悩んでますよ先輩」
「ごめんもうちょっと考えさせて!」


自分の了解です、という声は多分恐らく先輩には届いていない。メニューとひたすら睨み合うその姿が年上に思えなくて思わず口元が緩む。
どうしてだろう。むちゃくちゃ変な人だというのに、こんな一面を見るとどうしても微笑ましく感じてしまう。
普段の(例えば西園だとかへの)態度とのギャップが激しいからだろうか?そういや山菜先輩が「名前ちゃんはギャップ萌え要員…」だとか言ってた気がする。
これがその『ギャップ萌え』だと言うのならば恐らく自分はそれにはまりこんでしまって抜け出せなくなっているのだろう。


―――ずっとこの人を見ていたい


好きだとか嫌いだとかも正直よく理解はしていないけれど、松風に対しての好意を『好き』だと言うならそれは友情だ。
でも先輩に対しての『好き』という気持ちは友情とは少し違う気がする。尊敬?それに一番近いかもしれない。
決して恋愛感情でない事は確かだけれど、先輩がなんというか……正直に言うと木戸川メンバーと親しげに話しているのは気に食わなかった。
だから対抗心を燃やしてしまった…のか?手を握った時、思いの外柔らかくて暖かかった先輩の手のひらにどきりとした。咄嗟の言い訳は苦しかったと思う。
夕日の熱にあてられたわけではなく顔が熱くなった。多分、俺だけ。だからここに来るまでに熱が引いてくれて本当にホッとしていたりする。


「……ああダメだ決めらんない!剣城、私何でもいけるから私の分決めてくれる?」
「―――じゃあ先輩、せめて食べたいメニュー二つ決めてくれますか?」
「へ?二つ?んー……フルーツミックス、か………チョコバナナ」


ワゴン車のクレープ屋の前で、カラフルなクレープの写真を見比べながら先輩が絞り出したメニューはフルーツミックスとチョコバナナ。
いくら後輩後輩と言われようが俺も男だ。ジャージのポケットの中の財布にはクレープ二つぐらいなら何の問題もない程度の金額が入っている。


「剣城?ねえねえ、どっちが良――」
「すいません、フルーツミックスとチョコバナナください」
「え、ちょっ!?」
「あいよー、800円ね」
「ちょ、剣城待っ」


静止する声を振り切りさっさと千円札を差し出してしまえば先輩は「うおぅ」と変な声をあげてそのまま黙り込んでしまった。
やましい考えってレベルではないけど、これで"ただの"後輩"じゃなく俺だって男だって事を証明……ああ!何でだ!何で証明したいんだ俺は!
頭の中をぐるぐると駆け巡る感情とは裏腹に目の前では華麗にクレープの生地が焼かれ、可愛らしく果物とクリームがトッピングされていく。
お待たせ、という店主の声で考えを打ち切らざるを得なくなったのでクレープを二つ受け取った。店主のおっさん、ニヤニヤしないでくれ


「どうぞ、先輩」
「わわわ私が!奢るって言ったのに!」
「……格好悪いじゃないですか、女の人に奢って貰うなんて」


俺が格好つけたかっただけです、と言うと先輩は渋々ながらもフルーツミックスを受け取った。嘘ではないので良しとしよう。
クレープを見て嬉しそうな、しかし俺の顔を見て複雑そうな顔をする先輩。この人無駄に律儀だよなあと思う。


「荷物ほとんど持ってもらいましたし、遠慮しないでください」
「………ありがとう、いただきます」
「何で若干恨めしそうなんですか」


多分自分からは苦笑が漏れたんだと思う。一口食べます、と先輩にチョコバナナを差し出すと途端に笑顔になって飛びつかれた。
やっぱりこの人は変だけど、でも普通……に可愛いと思う。甘やかしたくなるのは俺だけだろうか?




これはまだ恋愛感情ではないよ

(何でですか)
(何で剣城に女の子扱いされると)
(心臓がこんなに破裂しそうになるんですか?)

(くっそ!もうヤケだ!)

(剣城ー!今度私のバイト先においで!美味しいもの食べさせたる!)
(先輩、飲食店でバイトしてるんですか?)


(2013/04/05)

クレープ食べたいなとか思ったが故にパフェからクレープになりました。
ちなみに私だったら迷うこと無く抹茶かコーヒーをチョイスします←