どちらの勝利なのか?

「………」

どうしよう。全然面白くない


「まあ、終わりよければ全て良しってことで?」


積み上げた資料をさっさと棚に戻してしまおうと椅子から立ち上がる。どうもこんにちは、名前ちゃんですっ★
剣城に待ってもらってサッカー教会の資料室に来たんだけど、つまんないのでもう調べ物は終了しまーすっ!


「……なんだこの脳内テンション」


自分の思考に自分がついていけなくなってどうする。誰もいなくてよかった。後声に出さなくて本当に良かった。
だって本当につまんなかったのである。新聞に書かれてる事はわりと脚色されてるし。
管理されてた目的とか興味深い部分の情報の収穫は得られず、とりあえずシードと呼ばれる強化選手を各校に送っていたことは分かった。あとは私が一番面倒くさいと感じていた勝敗支持というやつ。平等な勝利なんてあーやだやだ。
負けるからこそ次は負けないように努力特訓勝利目指して頑張るんじゃないか、まったく。


「あー、真面目な事考えてたら頭痛くなってきた………」


というか、私に調べ物だとか考え事だとかは似合わないしいらない気がする。


**


「そんなわけで何か食べに行こうよ剣城!」
「すいません、話がまったく分かりません」


案の定察してはくれなかった。まあそうだろう。
でも多分三国先輩あたりなら『慣れない事(調べ物)して頭痛がしたんだな』ぐらい察してくれる。マジお母さん。
しかし剣城の顔はなんとなくまんざらでもない、と言っているような気がする。これは押すべきタイミングだ!多分!


「頭痛くなったから甘いものがいいな、小腹も減ってるし」
「そんな時間はありま、」
「奢るから」
「………」


お、剣城が黙った!目が彷徨ってる!ちょっと行きたいなって顔してる可愛い!
バレンタインの時から察知してたが、やっぱり剣城はわりと甘いものが好きみたいだ。
そわそわしてる姿にはふうん、なんて悶えてしまう。ちょっとヨダレもたれちゃったから気がつかれないようにそっと拭う。

甘いものに心揺らいでる可愛い剣城なんてレアだから写真に収めたいが、これ以上好感度を下げると流石に本気で嫌われそうだからやめておく。
とりあえずは今日のお礼の意味もあるのだ。ダメ押しのセリフで押し倒すぞ私は。


「聞いてくれよ剣城君、私は昨日バイトの給料日だったんだ」
「へ?先輩、バイトなんてしてたんですか?」
「だから今なら余裕たっぷりだ!さあ私に奢らせろ!」
「奢らせろって初めて聞いたんですけど」
「私宵越しの銭は持たない主義なんだよね」
「……そんなに食べるんですか」
「あ、その気になってくれた?」


ちょっと呆れたみたいになった剣城が「あ、」と小さく反応した。よし勝ったな!
勝利を確信してほらほら、と剣城の服の裾を掴んで引く。協会のロビーの自動ドアが私に反応して開いた。
そのまま駆け出す事にする。まだ明るい太陽と青い空が眩しい。


「――先輩」
「ん?どーした?」
「服じゃなくて手、繋ぎましょう」
「っ?!」


するりと私の手に剣城のひんやりとした指が絡められた瞬間、サッカーしている時より心臓が大きく跳ね上がった。



これはどちらの勝利なのか?

(え、あ、剣城、あの)
(………俺がこけそうだったんで)


(2013/04/02)


二人共顔真っ赤の図。没タイトル→「ああ、素晴らしき我が青春」