ホワイトデー番外

「京介、そういえばお前……例の先輩にバレンタインのお返しはいいのか?」
「あ」


見舞いの際に兄にそう問われ、完全に忘れ去っていた事に気がついた、そうだ、明日はホワイトデーじゃないか。
バレンタインに特別だ、と囁かれて大量のお菓子を渡されたのは一ヶ月前。
味は確かだったあのケーキと超次元チョコレートと名付けられた爆発系チョコを作ったのが同一人物だなんて信じたくないな俺。
しかしお返しだなんて完全に失念していた。やばい、と警報が頭の隅で鳴り響く。そうか、今日の先輩の俺に向けるあのきらきらとした目。あれはお返しを期待していたのか…!
三倍返しなんて今からじゃ間に合わないぞ、どうする俺。助けを求めて兄さんをちらりと見やる。


「そうか、成長したなあ京介……その先輩が本命なのか」
「な゛っ!?に、兄さん!?」
「はは、照れなくてもいいんだぞ?―――ほら、これ」


――兄さんが差し出してきたのは、お菓子のレシピ本だった。


**


「ふんふふふーん♪」
「……………」
「ふふふふん、ふふーん♪」
「……………」
「………倉間」
「分かった!分かったからその拳を下ろせ!」


ほらほら貢物だ、と言いながらカラフルな包装紙に包まれた大好きなヌガー入りのチョコを放ってくれる倉間。
流石分かってるね倉間君は!上機嫌で早速口に放り込む。あー、やっぱこれだわ


「ありがと倉間!大好き!お礼に今度試作品だけど二号を…」
「ひっつくな!後いらねえからな!」
「ちぇー、改良に改良を加えて更にパワーアップしたのに」
「あれ以上の激物を生み出そうというのか」


微かに青い顔をした倉間はどうやら超次元チョコレートをお気に召さなかったらしい。おかしいな、私はあれ結構好きなんだけど。
そう、今日はホワイトデー。そんなわけで私は倉間からのお返し(チ●ル)を回収し、他のターゲットを見つけるべく部室を見渡している。
毎年苦笑しながらもちゃんとお返しを用意してくれるみんなはかなり優しいと思う。まあ普段お世話になってるけどお世話もしてるしね。
一番の楽しみはやはり三国先輩かな?昨日イナッターでカップケーキ作ってるって言ってたから楽しみだ!


「おはようございまーす!…あ、苗字先輩!はい、これ俺と秋姉からです」
「あ、おはよう天馬君……ってええ!?いいの!?」
「何でお前は後輩に対してだけ腰低いんだ?」


自動ドアの向こうから現れたのは天馬君だ。私を見るなり駆け寄ってきて、笑顔で差し出された袋。やだ出来た後輩…!倉間のぼやき声なんてスルーだスルー。可愛らしくラッピングされた袋を受け取る。なんという女子力。
流石秋さん…なんて思いながらを早速リボンを解いて中を覗きこむ。――わあ!


「そのマフィン、俺も一緒に作ったんです」
「すっごく美味しそう!ありがとう天馬君、ちゅーしたる」
「ええ!?いやその、それは遠慮します!」
「まあまあ遠慮しないで?」
「く、倉間せんぱーい!助けてください―――ッ!」
「………頑張れ天馬」
「え、ちょ!?倉間先輩っ!?見捨てないでくださいよう!」


ばたばたと暴れる天馬君を押さえ込み、ぎゅーっと抱きしめる。ああもう混乱してるのも可愛いなあ!まあ可愛い後輩の唇を奪うというのもまた一興。しかし天馬君は明らかにファーストキスだから自重して抱きしめるだけにしておこう。
どうせなら見て見ぬフリをしてる倉間も巻き込んでやろうか、なんて考えて倉間の方を見やる。――あれ?居ない……


「苗字先輩、ちょっといいですか?」
「あれ、剣城?どしたの?」
「すぐ終わるんで、ちょっとだけ」
「あ、うん……大丈夫だけど」


確かにさっきまで倉間が居た場所に、気がつけば剣城が立っていたので少し戸惑う。天馬君をゆっくり離して椅子に座らせた。
失礼します、と剣城が私の腕を掴んだ。――触れられる事に少し戸惑う。
そのまま廊下に出た剣城は周囲に人が居ない事を確認し、鞄からごそごそと取り出した小さな紙袋を突き出してきた。


「……これは?」
「その、バレンタインにかなり貰ったんで……お返しです」
「――もしかして?」
「……………作りました」


聞きました?クール系の後輩が、私に、手作りのお菓子をお返しで……だと!?
あの剣城が、と思わず正面の顔を見つめる。照れている、だと……
普段とのギャップにやられそうになりつつも紙袋を受け取る。どうしよう、私変だ。

――――普通の女の子みたいに、顔が熱いです



Happy White Day !

(剣城ーっ!)
(うわっ!?先輩ちょ、やめ)
(あのキャラメルサンド、すっごい美味しかったよ!)

(もう嫁においで!)
(あ、俺が嫁なんですか)

(2013/03/15)


遅刻…いや一日遅れなら問題ないはずだ
名無し様、バレンタイン共に企画参加本当にありがとうございました!

あ、倉間君は剣城の気持ちを知ってるので剣城の顔で察して退室しました。
なんという出来る友人