二万打企画番外
※剣城視点。剣城キャラ崩壊。

結論から言おう。


「剣城君、どうしたの?変な顔してるよ?」
「………あの、先輩……?」
「ん?私の顔に変なものでもついてる?」
「いや、そうじゃなくて!」
「?変な剣城君。ほら今は練習中で―――あれ、みなさん?」
「……名前……?」
「神童君、私がどうかしたんですか?」
「神童"君"!?"ですか"!?お、おい名前、どうしたんだ!?やっぱ打ちどころが悪かったのか!?」
「く、倉間君揺さないでくださいっ…!」


――先輩が、おかしくなった。


**


「………その、スマン」
「ある意味よくやったと言いたいが、不気味だからなんとかしてくれマジで」


珍しく気まずそうにするザナークと向かい合うのは霧野先輩だ。
そう、原因は単純明快。強い衝撃を受けたのである。
練習中にいきなり現れたザナークのルートクラフトに先輩が跳ねられたのだ。まあ化身アームドした霧野先輩に興奮した先輩が、グラウンドに飛び出したタイミングでザナークが現れたから先輩にも非があるのだが。
とりあえず今は空野が音無先生を呼びに行っている。戻るまでになんとかなればいいのだが……


「で、この女はどこがおかしいんだ?別に普通じゃねーか」
「…………………神童、俺はどうザナークに説明すれば良いと思う?」
「すまん、フォロー出来ない……っ!」


何の事か分からない、というようにきょとんと首をかしげる先輩を見て神童先輩と霧野先輩は半泣きである。
そう、何の効果があったのだろうか。


「べ、べつに私は何も変になってなんか……ないですよ?」


なんとまあ、―――先輩は可愛くなってしまったのである!


頬をうっすら赤く染めて、衝突したはずの部分は以前の名残なのかノーダメージで。
何故か性格だけが180度ほど曲がってしまったらしいのである。
言うなれば曲がりくねった道が一本道へ。普段のハイテンションぶりが嘘のようなしおらしさで。おしとやかで落ち着いた佇まいはまるで本物の美少女そのもの。


「明らかにおかしいんだよ!綺麗な名前とか俺は知らねえ!」
「倉間君、その……そんなにですか?」
「俺の知ってる名前はこんなに可愛くない」
「か、可愛っ!?」
「そこで照れる時点でおかしい!」


あ、倉間先輩まで半泣きの輪に加わった……先輩たち三人が肩を寄せ合う光景はなかなかにシュールである。しかしいくら正統派で普通と言えど、それは本当の先輩じゃないのだからどうにかしなければ。
先輩を振り返る。――そして次の瞬間に後悔した。


「剣城君、私どうしよう………っ!」
「なっ……!?」
「私おかしいの?よくわかんないけど、自分じゃわかんないよ…」


―――いやいや反則だろこれは!?ユニフォームの裾を指先だけで摘んだ先輩に動揺が隠せない。困惑で揺れる瞳。普段は成りを潜めているスペックの高さ。それらが絶妙に引き出されていてもう狙っているとしか思えない。
これ何の試練?助けを求めて松風達を振り仰ぐ。……そうだよな全員呆然とするよな!破壊力が高いってレベルじゃない。早急になんとかしないと抑えが効かなくなる…!


「おいザナーク、なんとかしてくれ!お前が原因だろ!天馬もなんとか言え!」
「いや、別に変なとこは見当たらねーんだが……」
「お、俺達には変にしか見えないの!こんなまともな女の子な先輩は苗字先輩じゃない!」
「普段のこの女はどういう女なんだ…?」
「すぐに分かるからさっさと元に戻してくれ!……破壊力が強すぎる……!」
「剣城ー、顔真っ赤だよー?」
「信助言わないであげて!」
「天馬!西園!うるさい!」


ただでさえ好きな人という事で補正がかかり、普段でさえ可愛く見える(倉間先輩は恐ろしい物を見るような目で俺を見た)というのに、だ。
俺だって至って健全な中学生。好きな人が服の裾を握って縋って来たら理性だってギリギリになるというものだ。
これが普段の先輩の演技だったら余裕で流せるだろう。しかし今は彼女の素。無理!


「しゃーねえなあ……おい、そこの女」
「ッ!な、なんですか…?」
「そう怯えるなって。取って食うワケじゃねえ。ルートクラフトで跳ね飛ばすだけだ」
「ひいっ!?」
「確かにもう一回同じ衝撃を与え――先輩ッ!?」


背中に柔らかい物がぐにゅぐにゅと押し付けられる感覚に思わず上ずった声が出た。いや待てこれはどういう、


「ザナーク!それ逆効果!ほら剣城が先輩に抱きつかれて固まってる!」
「ほう?なかなかに面白い女じゃないか」
「話聞いてザナーク!」


天馬がザナークの気を引こうと手を振るが、それを無視してこちらへと歩み寄ってくるザナーク。にやりとした顔にうっすら嫌な予感を覚えつつも集中なんてさせてくれない。先輩が


「良く見りゃ顔も悪くねえな。おい、引き取ってやるよ、そいつ」
「………へ?」
「キズモノにした責任取ってやるよ。俺はザナーク・アバロニク。名も無き小市民だ」
「ザナーク、おまん………何言っとるのか分かっとんのか!?」
「錦、お前は俺を馬鹿にしてんのか?別に大した事じゃねえだろう」


男らしいってレベルじゃねーぞ…と小さく瀬戸先輩の呟きが聞こえて我を取り戻した。――はあ!?それってつまりはプロポー…ズ?か?先輩に?いや今は可愛いけど先輩に!?


「な、ななななななっ!?」
「中々に面白いしな。気に入った」
「おも、おま、ザナ、ザナーク!?」
「なんだ剣城、お前この女に惚れてんのか?」
「ニヤニヤしながら言うんじゃねえ!」


しかし違うと言い切れないのも事実。顔が滅多にない程に熱くなっていて、それを見てニヤニヤと笑うザナーク。ちょっと待て、これ先輩が頷いたら先輩未来に!?ひ、引き止めねえと…!
「ななな」と"な"をひたすら連呼する先輩を振り返った。真っ赤に染まった普段じゃ有り得ない表情に思わず目を奪われる。
―――そのまま先輩と見つめ合う、数秒間。


「なにゃああああああ!?」
「先輩っ!?」
「と、とうとう名前が元に戻ったか!」
「違いますっ!苗字先輩は恥ずかしさで混乱して走り出したんです!」


先輩の叫び声に反応して振り向いた神童先輩に、鋭い天馬の説明(ツッコミ)が飛ぶ。というか何で俺と見つめ合って先輩はあんな風に?とりあえず今は追いかけるしかない。
足の速さは変わらないらしい先輩の後を追ってグラウンドを駆け抜ける。開け放された扉から外に出るつもりなのだろう。
先輩がサッカー棟から飛び出そうと扉に飛び込もうとした、―――その瞬間。


「やーあ!遅くなってすまなうわあああああ!?」
「きゃああああっ!?」
「……ワンダバ?って先輩ッ!?」


こちらも走ってきたのだろう。ワンダバが入口に姿を現したと思ったら先輩と衝突して二人で消えた。――何が起こったか?答えは簡単だ。衝突して二人は外側に倒れたのだろう。そして雷門中サッカー棟の入口には長い階段が設けられている。ということは?


「先輩ッ!」


入口から飛び出して下を覗き込む。……一番下に、団子状態になったワンダバと先輩の姿が見えた。
階段を駆け下りると後ろからも足音。天馬や先輩たちも飛び出してきたのだろう。ワンダバはどうやら無事らしく、唸りながら顔を上げた。そういえばアンドロイドだったな。兎に角ぐったりと動かない先輩を抱き起こす。こういう時は揺らさない方が良かったのか?いやでも、


「………うぅ」
「先輩!良かった気がついて……!」


揺らす間もなく先輩は薄目を開けてくれた。無事で良かった……さて、問題はこれ以上先輩が変になってないかという事である。
これで記憶でも失われたらたまったもんじゃな―――


「剣城?こ、この状況何?むちゃくちゃ恥ずかしいけど何羞恥プレイ?」
「名前!?」
「やだ拓人どうしちゃったの?私見て涙浮かべるなんて!」
「………先輩、もしかして!」
「へ?や、状況良く分かんないんだけど………」
「「「戻ったァ!」」」
「ちょ、そこの三人何でそんな泣きながら喜んでるの!?意味わかんないよ!」


ハイタッチを交わす神童先輩と霧野先輩と倉間先輩を視界の隅に捉えながら、とりあえず先輩を抱きしめた。



やっぱりあなたはこのままで

(ちょ、剣城!?どうしたの突然!)
(……先輩が戻らなかったら、どうしようかと、俺)
(へ?ってさっきまでの記憶無いや…)

(あれ?ところでキミは?)
(………覚えてねエのか?)
(がーっはっはっは!残念じゃったのう、ザナーク!)

(苗字先輩は基本的にあれと真逆の性格だよ)
(よくわからんが、俺は早まらなくて良かったんだな?)

(……まあ、あれはあれで良さげじゃねーか)

(ところでザナークはどうしてここに来たの?)
(暇だったからに決まってんだろ)
(……)



(2013/03/08)


二万打企画の番外編です*

緑様、リクエスト本当に有難うございました!
……無駄に長い上にグダグダしててこれは酷い…
ザナークを絡ませるとの事だったのでがっつり絡ませました。いかがでしたでしょうか?

まいうぇい読んでくださってるとの事で、本当にありがとうございます!
応援の言葉、本当に嬉しかったです。
これからも頑張らせて頂きますね、ありがとうございました!