サッカー協会へ続く道で
※剣城視点

「やー、よろしくね剣城!とりあえず私は道分かんないから道案内よろしく!」
「………本当に大丈夫なんですか?」


俺の手には小さなケースがいくつか入ったバッグを、自らの手には旅行鞄のような大きな荷物を抱えた先輩を振り返る。
神童先輩は『名前は怪力だからいくらでも頼れ』と言っていたけれども流石にこれは心苦しい。
先輩と言えども女子。……多分。俺の方が力があるはずだ、と言ってもしかし先輩は聞き入れなかった。
後輩だからと軽い方を押し付けられ、重いものは全て持たせているという状況。おかしい、明らかに俺が先輩を酷使しているように見える。
しかし先輩が余裕なのは本当らしい。現に汗一つ見えないし、余裕の笑顔も崩れない。


「荷物の事は気にするなよ後輩!じゃあナビゲートは任せた!」
「は、はあ……」


正直この状況は恥ずかしいです、なんて言えない。とりあえず二人で並んで歩き出した。


**


「………ああ、こりゃ倉間が言ってた事本当だな……一人じゃ迷ってた」
「先輩、方向音痴なんですか?」
「う゛っ……それにプラスして道とか覚えらんないし、一年前と変わってるから別の街に居るみたい」
「イタリアに居たんですよね?」


歩道橋を渡って、道を並んで歩いて。
この間の事件(掴んだだけであって決して揉んだわけではない)があったから先輩との会話は皆無だと思っていた自分。
しかし最初こそ少し気まずかったものの、以外にも会話は弾んでいた。


「そう!イタリア楽しかったよー!一年間じゃ足りないぐらい!」
「向こうではサッカーを?」
「ううん、本当はサッカー目的じゃなかったよ。学生の本分は勉強だし、何より私女じゃない」
「でも先輩、強いじゃないですか」
「特訓の成果!サッカーの神様っているんだろうね、凄い人に特訓して貰えたっていうのもあると思うよ」


にこにこと楽しそうにスキップしながら、巨大な荷物をぐるぐると回す先輩。――おかしい、あれかなり重いはずなんだが。
そして今更ながら自分が軽い方を持っていて良かったと思う。
先輩のは紙の資料や冊子だけれど、こちらにはデジタル機器が中心に入っている。振り回されて飛んで行こうものなら本当にやばい。
無駄な意地を張らずにいて良かったと少しホッとする。―――そんなホッとした直後だった。


「あれ?剣城じゃん」
「……うげっ」


口から漏れたのは完全に素の声。何故磯崎と光良がここに!?……面倒なのに会っちまったよコンチクショウ。
知り合い?と先輩の問いかけが聞こえた。全力で否定したい。しかし知り合いなのは本当なので否定しずらい。
今の今まで完全に忘れ去っていたのだが、この道は万能坂中と繋がる道だったな!うわー……あ……


「うーわ、心底嫌そうな顔!なになに、オマエも資料提出?そっち彼女?あははっ!」
「やめろ光良、剣城の片思いかもしれねーだろ?……プッ」
「勝手に想像して笑うんじゃねえ!違えよ!」
「そうだよ!剣城君に失礼でしょうが君たち!」
「「へ?」」
「……先輩、多分怒るところ違うと思います」


普通ならば「そんなんじゃない」と照れるのだろうが、この人には通用しないらしい。




変態とサッカー協会へ続く道で

(おいお前ら早す……うわ剣城!)
(……なあ、これなに?)
(俺の目がおかしくなってないんなら、磯崎と光良がお前らの荷物に押しつぶされてんだけど)

(篠山、気にするな)
(気にするわ!何だよこの状況!おかしいだろ!)

(2013/02/28)