なんつーか、その、

「………あ」
「………おはよ」


次の日の朝。
家を出ると、玄関の前には典人が居た。
まだかなり早い時間なのに仏頂面で鞄を肩にかけて、―――こんな事は初めてだ


「その、……どうしたの?」
「どうしたって、迎えに来たんだろうが」
「………………」
「何だよ、一緒に行こうと思ったら悪いのかよ」


こないだまで一緒に行ってたじゃんかよ、と口を尖らせる典人。
――でも、それは私が毎日彼の家に迎えに行って、私が一緒にくっついて強引に歩いていただけで。
何も聞かなかった……ううん、聞かないようにしていた私なら大喜びをするだろう。
でも今の私には不安しかなくて、ただただこれ以上嫌われてしまう事への恐怖心が膨れるばかり
だから、


「その、ごめん。……ごめんなさい」
「は?何で謝―――おい待て名前!」


頭を下げて、彼の横をすり抜けて学校へと走り去――ろうとした。


「――――あ、ッ」
「待てって!サッカー部なめんな!何なんだよこないだから!」


腕を掴まれて思いっきり引かれる。バランスを崩しそうになったけれどなんとか保った。
そうだ、典人はサッカー部だった。足が早いのは当然だ。
彼は酷く怒っているようで、腕を掴む力が強い。――痛い


「やめて、……痛い」
「ッ、―――話せよ、ちゃんと!俺の目を見て!」


無理に決まってる。顔も上げられないのに見れるはずもない。
腕を掴む力は少し緩んだけれど、離してくれる気はないらしいのでもうどうしたら良いのかすら分からない。
どうしよう、どうしよう………どうすればいいの?
何て言えばこれ以上疎まれない?


――ねぇ、あなたに嫌われたくないんです


「わ、私は……っ!その、もう……付きまとったり、しないから!」
「―――は」
「その、毎日毎日ごめん。……もう抱きついたりもしないし、軽い言葉も言わないよ」


笑え、笑えよ自分。――笑って、笑って彼の顔を見るの。
今なら分かる。毎日毎日好きと言うだけでは言葉の重みは軽くなるばかり
ずっと大事にとっておくからこそ重くなるのであって、

私には、きっと荷が重い言葉だったんだ


「………その、そういうことだから、離して」
「――――ふざけんな!何なんだよ!」
「なッ―――」


制服のリボンごと胸ぐらを掴み上げられる。突然の事にどうしたらいいのか分からなくなった時だった。


「おい何やってんだよ倉間!」
「……浜野」


走ってきたのは浜野君だった。そうか、彼もこの道を通るから朝一緒になったりしてたっけ。
典人の手から開放されて少し咳き込んでしまう。大丈夫か、と聞いてくれた浜野君の顔を見れない。


「………倉間、一体――」
「練習始まる。先行ってるぞ」


抑揚の無い声だった。そのあと、走り去る靴音。
浜野君は座り込んでいた私の手を引いて起き上がらせてくれた。


「なんつーか、その、……ごめん」


浜野君のせいじゃないよ、助けてくれてありがとうと言った私は笑えてたのかな