オレを選ぶ、だろ?

「ダンスパーティー?」

「そう、何でもヒビキ提督の誕生祝いのダンスパーティなんですって」
「男女でペアになって踊れるらしくて、ご馳走もたくさん出るんだとか」
「あ、でも踊る人じゃないとご馳走食べられないらしいわよ」
「ドレスコードがあるらしいし、どうしようかしら」


テストが無事に終了した一週間後、クラスメイトからそんな事を聞かされた私は迷わずエスカの元へとダッシュした。
私とエスカのクラスは結構離れている。先にエスカが他の子に誘われてしまったらアウトだ、私がご馳走にありつけない

―――どんなご馳走が出るのかな、なんて想像しながら階段を駆け下りていると足を滑らせた。


「きゃああああああっ!?」
「なっ、ナマエ!?」


奇妙な浮遊感の後のどさりという音。見知った声と柔らかいものに包まれていた。
目を開けると王牙学園男子生徒の制服の袖が目に入る。
そのくせ体は細くて手首は華奢で―――って、


「ミストレ!?大丈夫!?」
「オレは大丈夫だけど君こそ何をやってるんだ!?大惨事になるところだったぞ!」
「……ご、ごめんなさい」


起き上がってみるとどこも痛くない。ついでにミストレの手も掴んで起き上がらせる。
そうしたら謝るより先に感謝しろオレに、と言って抱きしめられた。

………抱きしめられた?


「ななななな何してるのミストレ!?」
「何って、すっげ、ビビッた………」
「じゃない!何で抱きしめっ!?は、離して!」
「………何、緊張してんの?」
「ばっ、バカ言うな!」


**


「へぇ、提督の誕生日ダンスパーティー……君もか」
「エスカ誘おうと思って走ってたの」
「――またエスカバか、ナマエは本当……」
「だって親友ですし。心の友ですし。ミストレは行かないの?ご馳走あるみたいだよ?」
「生憎ナマエほど食い意地は張ってないんだ。それにさっきだって断るので精一杯」
「そっか、モテモテだもんね羨ましい……やっぱ羨ましくない」


妙に疲れた顔をしているのはそのせいなのだろう。そう考えると人気がありすぎるというのも怖いものだ。
お疲れ様、と言ってミストレの頭をぽんぽんと撫でてみる。あ、振り払われた


「――この間は、ごめん」
「え?」
「その、……悪かったな、空気悪くして」


しばらくミストレの言っている意味が分からなかったのだ。
――あの勉強会の時に口論をした事を謝っているんだという事を脳が理解した瞬間私はずささささっとミストレから距離を取っていた。
あの、プライドの高い、ミストレーネ・カルスが、謝罪を、した、だと!?


「ね、熱でもあるのミストレ!?」
「どこまでも失礼なんだな君は!」


ばしりと頭を叩かれる。頬が紅潮しているという事は恥ずかしかったのだろうか。
まじまじとミストレを見つめる。……やっぱ、いいやつだ


「いいよ、私もごめん。それと本当にありがとね、助けてくれて」
「怪我が無くてよかったよ」


ナマエも女なんだから、と微笑んだミストレに不意にどきりと心臓が高鳴る。


「そうだ、お礼!お礼何がいい?」
「お礼……?求めて助けたわけじゃないんだけど」
「ミストレがかばってくれなきゃ私骨折ぐらいしてたよ、お礼させて?」


心臓の高鳴りを誤魔化すようにお礼を申し出る。
しばらく戸惑っていたミストレは少し考えた後、じゃあオレとダンスパーティ行こうよ、と小さく誘ってきた。
思わぬ反応にきょとんとしてしまう。でもエスカが、と呟いた私の口をミストレは自分の手で塞いだ。


「オレを選ぶ、だろ?」


嗚呼、心臓が爆発しそうなくらい五月蝿い