君、彼氏いないだろ?

……今何て言ったこの女たらし。


「だから、彼氏なんていないだろ?その様子だと今まで出来た事もないってとこかな」
「うるさい!別にいいよ、興味ないし」
「ナマエって本当色気ないよね、もうちょっと女らしくしたら?」
「………」


構ったら負け。至って単純明快な結論に至ったのでこの女顔を無視する事にする。
そもそもこんなヤツと訓練場控え室で二人っきりになった事が間違いだったんだ
バダップ達はまだ来ないみたいだし、練習の準備は万端なのに来ているのはこのミストレのみ。なんなんだ


「あ、ちなみに今日の練習は20分後からだから」
「はぁ!?……待て、私に今日の時間伝えたのってミストレだよね?」
「そうだけど?」


見ているこちらがイラつく程美しく清々しい笑顔で微笑んでくるミストレ。……騙された
きっと彼のファンである女の子達からしたらとてつもなく羨ましい状況だろう。
しかし私はキャーキャーと言った黄色い声を上げる女の子達が理解出来ないのでストレスしか感じない。


「二人っきりだね?」
「だからどうした」


すぐさま控え室を出て行こうとすると扉の前に立ち塞がるミストレ。
――最近やたらと絡んでくるこの女たらしが私は苦手だ。
どちらかと言うとサバサバしてて話も楽なエスカの方がいい。むしろ癒される
第一何で私みたいなのに構うんだろう。常に周囲には女の子をはべらせてるくせに


「オレさ、君のこと気に入ってるんだよね」
「そいつはどーも。ところでそこどいてくれない?」
「うわ無視?結構悲しいな」


にやにやと笑う顔を見て思う。――どこが悲しい、だ。言葉と顔が合っていない
第一ミストレに気に入られても全然嬉しくないのである
そうだよ!私は年齢=彼氏無しの一般的なチキンハートを持つ女子だよ!顔だって普通だしな!
あんたみたいな女たらしな美人と一緒にしないでくれもう本当


「だからさ、キスさせて」
「―――は?」


殴ってやろうかコイツ。…と考えているうちにいつの間にか目の前に移動してきたミストレを避けるように一歩下がる。
そんな私に合わせてミストレも一歩前へ。
また下がる。追い詰められる。下がる。追い詰められる。とん、と背中が壁に押し付けられる。


「なんのつもり?」
「男と二人っきりなんだし、ちょっとは意識して欲しいなーって」
「ごめんミストレは顔的にも体格的にも個人的にも意識出来ない」
「―――へぇ?」


ミストレを取り巻く空気が一気に剣呑なものへと変わる。いかんつい本音を
そしてこの状況はいわゆる"壁ドン"というヤツだ。今この状況をミストレのファンの女の子にでも見られたら私殺される
焦って抜け出そうとするも華奢な癖に流石は男子で軍人。……簡単には引き剥がせない


「抵抗しても無駄だって」


耳元に吐息がかかって思わず体が跳ねる。――っ、まずい
そのままミストレの顔がどんどん近くなってきて、


「――――何をしている」
「あーあー、また朝から盛ってンのかミストレ」


後数ミリ、というところでミストレが止まる。そしてそのままゆるゆると離れる顔と拘束の手
扉から入ってきたのは呆れたようなバダップと、にやにやしたエスカだ。
助かった!ありがとうと感謝の言葉を述べてエスカに駆け寄って抱きつく。安定の抱き心地。ちゃんと鍛えられててすっごい好きだエスカの体。…いや変な意味じゃなくて。


「やっぱエスカのが楽だー……癒される」
「ッ、ナマエ!」
「はいはいお前はその毎朝のそれをやめろ、俺は人形じゃねえ」
「離れろよ、エスカバ」
「なんでだよ、いつものことだろ」
「こんなところで争うな、ナマエがエスカバ大好きなのはいつもの事だろう」


うるさい!と一事叫んで何故かイライラと出ていってしまったミストレに疑問符しか浮かばない。
今日もエスカに抱きついているとなんとなく、外の空気の香りがした。
ミストレは創りものみたいに綺麗だから少し苦手なのかもしれない。
このまま彼氏なんて出来ないんならエスカがもらってくれる?と聞いたらいいぞ、と笑顔で返してくれた。流石我が親友