01消えたらそれはそういうものだった



「ナマエ、…落ち着いて聞いてくれ」


鎧を脱ぎ、剣を背に、簡素なベッドに腰掛けたグレイグの手の甲が腫れ上がっているのを見つめながら、ナマエはその言葉にゆっくりと頷いた。恐らく"あの人"のことであろう、どうか"あの人"のことでありませんように。相反する思考が同時に心臓の奥で声を上げている。口は結び、音を外に漏らさぬよう細心の注意を払う。

無言を促しと捉えたグレイグが、微かに口を開き、閉じ――…俺は、と微かに躊躇った。その一言のなかに、どれほどの自責の念が込められているのだろう。事情を何も知らないナマエだったが、今この場に"あの人"がいない、それが雄弁に事実を物語っているではないか。死んだのか。殺されたのか。周囲は行方不明だと囁いているけれど、本当は、


「そんなに、自分を責めないで。…それで、にいさんは」
「…ホメロスは、魔の手に堕ちた」


――死よりも恐ろしい、通告にナマエは一瞬、意識を手放しそうになった。


20170923