13嫌いになるまであと何年かかるだろう



ウルノーガを討ち果たし、取り戻した命の大樹の元で、デルカダール王国は再興を遂げた。大きい傷跡を残してはいるものの、以前と変わらず多くの人々で賑わう城下を、グレイグは顔と身体に似合わぬ金の花束を持って、歩く。

墓地は今日も静かだった。以前よりも随分と増えた墓石の群れのなかを、迷いなくグレイグは進んでいく。暇を見つけては足を運んでしまう、それだけ後悔が強く残っている。


王国の騎士達が眠る墓石の群れのなかで、それは一際立派な白い石で造られていた。王がそれほどその男を信頼し、大切にしていたのか、一目瞭然だろうとグレイグは思う。どこで、何を間違えたのか、今だグレイグには分かっていない。
かつて自分と並び、デルカダールの鷲に例えられた男の墓の隣には、よく磨かれた墓石が並んでいる。石にその名を刻んだのはグレイグだが、――…今もその文字を目にするだけで、グレイグは胸が締め付けられる。

最後の砦に戻ってきたとき、ナマエの姿はそこになかった。世界が平和になったことを喜ぶ人々の中で、グレイグはナマエが自ら海に身を投げたことを知った。見張り番だった荒くれが、見張り塔から人の影のようなものに気付き、目を凝らすと海にその影が落ちていったのだという。日が昇った後、覚えのある崖の傍に行くとこれが、と――荒くれから受け取ったというそれを、グレイグは王の手から渡された。まごうことなくナマエの字で綴られた、それは遺書と呼ばれるもの。


『家族の元へ帰ります』







「……俺は、家族にはなれなかったんだな」


グレイグの漏らした乾いた笑い声は、さざ波の音に掻き消された。どちらも骨一つ残さないまま、幼い頃を共に過ごした兄妹は目の前から消えていった。血の繋がりを持たない自分だけを残して、哀れな最後をそれぞれ、同じ瞬間に迎えてこの世を去った。もう二度と会うことが叶わないのなら、せめて共に過ごせているうちに、腹を割って様々なことを話しておくべきだったと、今更ながらにグレイグは思う。何もかも遅い、世界を平和にするためには道を違えたホメロスに刃を向けねばならなかった。ホメロスに刃を向けねばならぬということは、どちらかが消え去る定めだった。どちらかが消えれば、ナマエもおそらく、


「ホメロス、ナマエ、――…また、花を添えに来る」


首を振り、何も眠らない墓石の下に言葉を残し、グレイグはゆっくりと立ち上がる。約束の時は少し先だが、剣の主たる勇者を待たせるわけにはいかない。


――今日は魔王討伐を成し遂げた面々で、ラムダに集う日だ。


リーベンデールにさようなら


20171002/fin