皆帆に誕生日プレゼントをもらう


「苗字さん、今日は君の誕生日らしいね」


鞄を机の上に置いて、隣の席の皆帆君におはようと言った直後だった。にこにこと笑う皆帆君に言われて初めて、そういえば今日は私の誕生日だったなと思い出したのだ。「あ、そういえばそうだ。私誕生日だ」「…その様子だと、まったく考えてもいなかったってところかな」自分の生まれた日じゃないか、と皆帆君が苦笑した。けれども勉強に部活にと忙しい日々に追われてしまえば、そんなことを考える余裕なんてなくなると思う。


「でも、やっぱり僕の考えていた通りだった」
「?どういうこと、皆帆君」
「苗字さんはだってほら、一つのことに集中しちゃうと周りが見えなくなるタイプなんじゃないかって。サッカー部は忙しいみたいだしね、忘れちゃってるんじゃないかって思ってたのが当たってたってわけだよ」
「へ、へえ…」


得意気な皆帆君には悪いが、あんまり彼の言いたいことが把握出来ない。確かに彼は頭がいいし、よく気が付く人だと思うけど…さっきのは褒められたのか貶されたのか。突っ走るタイプだというのは否定しないけど、まあ…あんまり誕生日なんて強く意識することがなかったからだろうか。「そんなわけで苗字さん、」ぼんやりとしていると、いつの間にか目の前に移動してきていた皆帆君が机を挟んで私と向かい合っていた。はい、と。言葉と同時に差し出されたのは、可愛らしいクマの形の缶。


「…えっ!?」
「僕が用意してたのが以外だったかな」
「いや、以外、っていうか…!いいの?えっ、ほんと!?」
「勿論。苗字さん、チョコレートは好き?」
「うん!」
「良かった」


おずおずと手を伸ばして缶を受け取ると、可愛らしいクマが私に向かって微笑んでいる。「苗字さんはいつもお菓子を持ち込んでいるみたいだったから、甘いものにしてみたんだ。外れてなくて良かったよ」疲れを取るには甘いものだよね、と笑った皆帆君は私のことをきちんと見てくれているみたいだ。それがとても嬉しくて、思わずクマを抱きしめていた。ひんやりとした缶の冷たさが心地良い。


「ありがとう、皆帆君!すごく嬉しいよ」
「それならいいんだ。喜んで貰えて僕も嬉しいから」


まさかプレゼントを貰えるなんて!喜びをそのままに伝えると、先程とは違って優しくふんわりと微笑んだ皆帆君に少しだけ心臓がどきりと高鳴った。え、ちょっと待って、私まさか今皆帆君にときめいた?いやいやまさか。「…でもどうして、私の誕生日を?」自分の心を誤魔化すように皆帆君に問いかけてみると、優しい微笑みを崩した皆帆君が一瞬だけ目をまん丸に見開いた。「……え、分からない?」酷く意外そうな声でそんなことを言い出した皆帆君に頷く。次の瞬間、酷く深い溜め息が聞こえた。


「……やっぱり、一つのことに集中すると君は周りが見えなくなるんだ」
「え、えええ?どういうこと?」
「僕は別にただの友達だと思っている異性に、プレゼントを贈ったりなんてしないんだけど」
「………え!?」
「分かりやすいようにしてたと思うんだけど、本当に気がついてなかったの?」


急に体中が火でも付いたかのように熱くなっていく。特に顔が、頬が強い熱を一瞬で発するようになっていた。咄嗟に手のひらで顔を覆うと酷く熱かった。「隠さなくていいのに」そっと皆帆君が顔を寄せる。でもやっと気がついてくれたんだ、と耳元で囁いた彼が笑ったのが視界の隅にちらりと映った。


「ねえ苗字さん、その反応はまんざらでもないって受け取ってもいいのかな?」
「っ…」
「どうかな、苗字さん」


僕は君のことが好きなんだけど、とさらりと告白されて頭の中が真っ白になった。多分、頭がパンクしちゃったんだと思う。無意識のうちに頭はこくりと縦に動いていたようで、我に返った時にはいつもよりも嬉しそうな笑顔の皆帆君が目の前にいた。「嬉しいよ、苗字さん!」ぎゅう、と握られた手に口から心臓が飛び出しそうなぐらいには驚いた。でも皆帆君の笑顔はとても嬉しそうで、その笑顔のきっかけを私が作り出せたのだとしたら、それはきっと何よりも素敵なプレゼントを、私は皆帆君から貰ったことになるのだ。うん、私も嬉しい!」素直に口に出した言葉で、また皆帆君が優しく笑う。ああ、今日はなんて素晴らしい日だろう!


君だけの記念日に幸福が降り注ぎますように



(2014/04/17)

短くてごめんなさい、お誕生日おめでとうございます!これからも大好きです