彼女の誕生日に仕事が手につかない基山社長


「ねえ、名前が今日誕生日なんだけどさあ」
「知ってる」
「……俺、プレゼント用意してないんだよね」
「知ってる」
「……………実は、」
「指輪あげたいけどデザインがどんなのか良いか分かんなくて迷ってるんでしょ、知ってる」
「なんでそんなに知ってるんだ!ま、まさか…!」
「俺が詳しいのは、ヒロトがさっきから何回も同じ話をするからだよ!」


流石にかちんと来て、二人きりの執務室で声を荒らげてやるとぽかんとした顔でヒロトがこっちを見てくるもんだから思わず、頭を抱えて唸っていた。「…そんなに何回も喋ってた?」おかしいな、二回ぐらいのつもりだったんだけどとぼやくヒロトの感覚は明らかにおかしくなっている。「少なくとも十回は繰り返していたぞ…」はあ、と溜め息を吐くとヒロトが幸せが逃げるよ?と顔を覗き込んできた。うるさい。


「あのなあヒロト、お前があげたいと思うものをあげればいいと俺は思う」
「でも名前が……似合うもの」
「うじうじうじうじ…あああうっとうしい!さっさと買いに行け!」


名前なら呼んでやるから!と携帯電話を取り出した時のヒロトの顔といったらもう、ぱああっと輝いてまるでサンタクロースを待つ子供のようだった。「ったく、なんで俺が…」意気揚々と執務室を飛び出していった、ヒロトの走る姿は非常に軽やかだった。小さい頃から見守っている二人の婚約の知らせを楽しみにしながら、俺はヒロトの分の中で自分が片付けられる範囲の仕事をざっと計算する。うん、明日は地獄だぞヒロト。




(2014/04/17)