もう、壊れちゃうんじゃないかってくらい、熱い


ララヤ様に暇じゃから付き合え、と室内での映画鑑賞に誘われたのが昨日。ララヤ様は私達イクサルの生き残りと交流を深めたいのだろうと推測した私は少し迷ったけれど応じることにした。ララヤ様は幼いが、尊敬出来ると判断した結果だ。

そうして私室で行われた二人きりの小さな映画鑑賞会で、上映するのに選ばれたのは最近家庭用のディスクが出たというラブストーリー映画だった。たまには良いじゃろうと笑うララヤ様に笑い返した瞬間、ふわふわした…暖かい優しい何かが心の奥をくすぐった。きっとララヤ様の笑顔がとても可愛らしかったからだ。

上映が終わった後、ララヤ様はどうじゃった!?と私に問うてきた。私としてはありきたりなストーリーだと(昔も今もそれは変わらないらしい)思ったけれど、きらきらと輝く彼女の目に気圧されてしまって、最期がハッピーエンドで良かったと思いました、なんてことを言ってしまった。そうかそうか!と満足気に笑ったララヤ様を見てほっとする。

時々お茶を飲みながら、私とララヤ様はたくさんの話をした。恐らくララヤ様の狙いはきっとここだったのだろう。私はオズロックのことを根掘り葉掘り聞かれた。どうやって出会ったのかだの、何がきっかけで好きになったかだの。映画と現実の恋愛を比較してみたいのじゃ!なんて笑顔で問いかけられたらそんなの、ごまかせるはずがない。結局きちんとお互いを意識して、正式なお付き合いというものを始めたのは最近だと言うとララヤ様は嬉しそうに、ひとつ聞きたいのじゃ!と私に詰め寄った。


「名前はオズロックとキスをしたのか?」
「ふむぐっ!?」


**


ララヤ様の言葉に惚けたまま、王宮の廊下を歩いていると目の前を横切っていったミネル様からだらしのない顔をしないでください、と注意されてしまった。次いで遭遇したロダン君には間抜け顔ブスだね、と指摘された。そして今目の前にいるイシガシは呆れた顔で(珍しくも)手にした書類で頭を叩いてきた。なにするの、と返した私の声は自分でも驚くぐらいに覇気がない。


「……間抜けな顔をしていますよ」
「それはいつものことじゃないかなあ」
「訂正します。普段よりさらに間の抜けた顔です」
「えっ私普段から?」
「大方くだらない事でしょう……何があったんです」


このままでは役に立たなさそうですし、と続けたイシガシにオズロックの事を相談しようとしてふと我に返る。今イシガシ私が普段から間抜けな顔してるって言った?つまりロダン君の言うことが本当なら私は常にブス…「どうしたんです、深刻そうな顔をして」「いや、ちょっと…うん…間抜け顔かあ…」意識していないうちに私の顔は常に間の抜けた顔だったということを自分で認識すると、恥ずかしさが急にこみ上げてきた。そりゃあオズロックとキスなんて出来ないはずだ!自分からはそんな事をする発想はなかったし、オズロックだって忙しそうだと言い訳して…うん…

つまり私はララヤ様についさっき、指摘されるまでオズロックとそういった行為をしていないことに気がついたのである。いやあ目から鱗の感覚とはまさにこれ。何が原因で私と付き合っているはずのオズロックは私に手を出してこないのだろうと考えながら歩いていたわけだが、答えは簡単なところにあった。要するに私に魅力がないのだ!


「……泣きそう」
「あの、名前?」
「私ってつまりキスしたりする意欲の失せる顔だったってこと…?」
「…は?」
「待って!むしろそういうことしないってことは、嫌われてる!?」
「名前、何が言いたいのか、」
「もしかしてオズロックって私のこと好きって言ったの冗談だったのかもしれない!」
「……名前、うるさいですよ」
「私騙されてた!?ねえイシガシどう思う!?」
「うるさいので黙ってください」
「いっ!?」


蹴り飛ばされたのは脛で、鋭い痛みに思わず呻いて足を抑えると上から小さく鼻で笑うような声が聞こえた。「名前、間抜け顔がさらに酷くなっていますよ」「うるさい!」蹴ったのはイシガシのくせになんてことを言うんだ!どう言い返せばイシガシが言葉に詰まるかと考えながら痛みに耐えていると、目の前に綺麗に整ったイシガシの顔が現れたから思わず色気もへったくれもない声を出して目を見開いた。「嫌われている、騙されている、キスする意欲の失せる顔…ですか」名前にしては珍しく後ろ向きですね、と無表情(というか、少し迷惑そうな顔)で私の顔を覗き込むイシガシ。でも本当かもしれないよ、と言い返そうとしたところで体がふわりと浮いた。


「だ、そうですよ」
「………えっ」


いや、まさか。そんなのあるはずない。さっきララヤ様と観た映画みたいな、そんな状況が起こるはずがない。目の前で口元をうっすらと緩めるイシガシだけでも現実味が薄いのに―――簡単に背中から抱き上げられてしまった体が暖かいものに触れる。誰の腕なのか、それは映画の内容で言うなら主人公の相手役の男だった。私の場合つまり、


「騙されている、ねえ……」
「ひっ…!」


耳元で響いた声は普段よりも低い声で、思わず口元が引きつった。「あ、あの……」もしかしてオズロック?なんてしらをきる作戦は使わせてすらもらえないらしい。床に足を付かせて貰って、振り向いた私の目に映ったのは瞳の奥にソウルの獣を映した非常に恐ろしい顔のオズロックだった。これは私、無に返されるんじゃなかろうか…なんて恐ろしい考えが頭に浮かぶぐらいには怖い顔をしていたオズロックは、私の体を引き寄せた時にはもう普段の余裕たっぷりな笑みを浮かべていて、混乱する私のファーストキスは狼狽えている間に奪われてしまったらしかった。


「抑えているんだ。壊さないようにな」


キスをされた実感の沸かないまま、耳元で再び囁かれた言葉にへなへなと足から力が抜けた。そのまま踵を返して普段とまったく変わりない様子で廊下を歩いて行ってしまったオズロックをぼんやりと見送る。そんななか視界にロダン君が映って、ヒュウ、なんて口笛を吹いたものだから顔から火が出そうになった。


もう、壊れちゃうんじゃないかってくらい、熱い



(2014/03/16)

...Rosy note様

明るい可愛いオズロックさん夢を目指したら間違えた感じがする
そもそも二言しか喋ってない→でボツに