無題
(イシガシのやつの瞬木視点みたいなの)


これが恋だと自覚するまでにかなりの時間を必要とした。恐らく俺が苗字に惹かれたのはあいつがいつだってブレることなく、俺に接してきたからだろう。どこか遠くを見つめているような苗字に対し度々馬鹿なやつだとは思っていたけれど、流石にその見つめている先とやらが宇宙人だった時には呆れ果てた。どうせ傷ついて泣く事になるのだろうに、バカにはそれが分からないらしい。

案の定目の前にイクサルフリートが現れた時、苗字は目の前に大好きな宇宙人を捉えた瞬間に目を見開いた。言葉を失い、ぱくぱくと金魚のように口を動かすその様子はまあ滑稽で、同時にざまあみろとも思ったのだ。分かりきった事をどうしてそんなに驚くんだろう。それでも表面上は知らないふりをして声を掛けてやると、なんと俺の知らない間に苗字はイシガシと付き合う、なんてことになっていたらしい。ここで本当に呆れてしまった。目の前で起こる事実を受け入れられないバカは、今にも泣きそうな顔で俺を見るのだ。なんて面倒臭い。さっさと準備しろとだけ声をかけてやるが、そのまま苗字は動かない。まあ放っておけば動くようになるだろう。


「馬鹿な女だ」


キャプテン達がフォーメーションを相談している場に歩いて行こうとした時、後ろからオズロックの声が聞こえたから振り向いた。いつの間にか座り込んでいた苗字にヤツが近寄っている。ああ面倒臭い!が、あんなヤツに苗字が触れられるのは気に食わない。面倒臭いが、さっさと回収する方が早いだろう。舌打ちをして歩み寄ろうとすると、俺の向かい側からイシガシのやつが苗字に近づくのが見えた。

思わず足を止めて経過を見守る。苗字は心からあの男に心酔していて、共に過ごせる時間をより多く作るために戦っていたのを俺は知っている。剣城の偽物について知っていたくせに、イシガシのためならと口を噤んでいたのも知っている。いや…イシガシが噤ませたのか。苗字の感情を上手く利用したことを知ったのはつい最近で、偶然一人でいる苗字が花瓶の花に向かってそれを打ち明けていたのを聞いてしまったためだ。

余程追い詰められたのだろうが、でもあいつの心は甘ったるいもので常に満たされている。それら全てはあの男のものであり、苗字を裏切ってなお無条件にそれはそいつに注がれている。イシガシが膝を折り、苗字に顔を近づけたのが見えた。キスでもしてやればそれは苗字にとって酷く嬉しいことだろう。


「……ンなこと、あるわけねえか」


何事か囁かれでもしたのだろう。みるみる悲壮の色に変わっていく苗字の表情は面白いぐらいに予想通りだったのだが、彼女が髪を掴まれて無理矢理に立たされたところではっとした。裏切った癖にその汚い手でそいつに触るのか!いくらバカ女でも、苗字が至って普通の少女だということを俺は嫌というほどに知っている。

走り出した時にはもう遅く、振り払われた苗字がグラウンドに倒れ込んでいく。咄嗟に手を伸ばすが届くはずもない。「名前!」駆け寄った時にはもう苗字の目の中に色はなかった。真っ暗なその目に俺としたことがゾッとしたものを感じて思わず身震いする。苗字を抱き起こした俺をまるで無機質な目で見下ろす苗字の思い人。


「貴方もとても滑稽だ」
「……そうかよ」


例え滑稽だとしても、俺はこのバカ女が好きだ。俺がお前に成り代われるとしたら、きっとこいつを俺なしでは生きられないぐらいにしてやるのに。それを出来る立場にいながらこいつを手放すのだから、お前だって俺から見れば十分にバカだ。






...DOGOD69

(2014/02/27)

っていう瞬木君どうでしょう