据え膳食わぬは男の恥
(※偽物臭!口調がおかしいかも)


「おはよう、名前!気分はどう?どこか痛いところとか」
「……ガンダ、レス?」
「うん!」


目を開いた瞬間に飛び込んできたのは笑顔のガンダレスで、次の瞬間に映ったのは見慣れない豪奢な天井だった。あれ、と思って思わず周囲を見渡してみる。…私の部屋じゃない。ギャラクシーノーツ号の、私の個室じゃない。


「ここ、どこ?」
「俺とリュゲル兄の部屋だよ!」
「へえ、こんな豪華なとこがリュゲルとガンダレスの……は?」


今ガンダレスは何と言った?


…………いやいやいやおかしい。私は昨日の夜、きちんと自分の部屋で日記を付けて布団に入って、今日の練習に備えて眠ったはずだ。蒲田さんが干しておいてくれた布団は異星でも暖かい太陽の熱を吸収して優しい香りを発していたから、抗うことなく睡魔に身を委ねて…それで……それで目が覚めたら目の前にガンダレス?わけがわからないよ!


「なあ、」
「ひいっ!?」
「なんでそんなに驚くんだ?」
「い、いやいやいや!?あなたは私達の敵でしょう!?」


おう!なんて笑顔で頷くガンダレスを確認した瞬間、咄嗟に毛布を引き寄せていた。「わ、私をなんのつもりで…!」チーム員削り?戦力を削ぐのが目的?みんなを混乱に陥れるつもり?それとも人質か何か?……まさか、取って焼いて煮詰めて食べる気じゃ…!?ここは宇宙、人肉を食べる宇宙人がいてもおかしくはない。

それによくよく見ると、ガンダレスにが(そういえばリュゲルにも)ツノのようなものが頭にある。ファラム・オービアス人にも種類があるのだろうか。…もしかしたらこの兄弟は鬼の異星人で、時折人肉を食べていたりするのかもしれない。でもちょっと待て、それでどうして私!?地球人食べてみたいなーなんて思っちゃったの!?

「なんのつもり?ええと、なんだったっ…「やめてよ私美味しくないよ?!」…へ?」思わず叫ぶときょとんとした顔でこちらを見つめてくるガンダレス。「…ごめん、なんでもない、です」純粋無垢な顔をしたガンダレスの恐ろしい力には敵わないと知っているからか、声が震えて萎んでいった。怖い。怖くて怖くてしょうがない。気がついたら毛布で隠している腕も小さく小刻みに震えていた。

逃げることは可能なのだろうか。おそらくここはファラム・オービアスのサッカーチームが利用している施設の一室なのだろう。これだけ豪華な部屋なのだから、建物だって大きいはずだ。大きい建物(尚且つ豪奢な建物)には確実に警備がいるだろうし、何より目の前のガンダレスが容易に逃がしてくれるとも思えない。


「思い出した!飯、飯のことだ!」
「……えっ?」
「ええと……置いておいた飯を?食べないと…男が恥ずかしい?」


なんとかリュゲルのいないうちにガンダレスを騙せないか、という結論に至った私の目の前でガンダレスが不可解な事を言い出したんですがこれはどう解釈すれば良いのでしょう。置いておいたご飯を?食べないと?男が…恥ずかしい?


「…もしかして、"据え膳食わぬは男の恥"?」
「そう!それだ!…あれ、ちょっと違ったような…?」
「多分リュゲルはそう言ったんだと思うよ」
「そうか!そうだよな!やっぱリュゲル兄はすげえよなー!」


リュゲルがどんな風に教えたのか分からなかったから、最終的には放り投げたけれども私の回答はガンダレスのお気に召したらしい。満足気に頷いたガンダレスがこちらに満面の笑顔を向けてくる。「スッキリした!」「そう、それなら良かった」警戒心が少しだけ緩んだ。なんだかあどけなく見えるガンダレスは試合の時の恐ろしい表情とは違って、まるで気を許したように私に接してくるのだ。くすぐられるのは母性本能のようななにか。思わず口元を緩めるとガンダレスが更に嬉しそうにするから、なんだかこっちまで嬉しくなってきてしまう。連れて来られた意味はよく分からないけど、まあこの調子で気分の良いガンダレスをなんとかおだててみんなの所に帰、


「ほんっとにリュゲル兄はすげえんだ!名前だって一瞬で攫っちゃうし!」
「…うん?」
「なんでも出来るんだぜ!ほんとリュゲル兄は、すっげえよなあ…」
「……リュゲルが、私を、攫ってきた?」
「ああ!俺がさ、名前が欲しいって言ったら協力してやるよって!」


―――逃走計画なんて吹っ飛んだ。


「よく分かんねえけどさ、名前がすっげー欲しいんだ。リュゲル兄に聞いたら…えっと…こいわずらい…?じゃないかってさ。ほんとにリュゲル兄はなんでも知ってるんだぜ!『ガンダレスが名前を好きなら俺の弟であるガンダレスを、名前が好きにならないはずがない』って!オレ、そんなの考えたこともなかったから興奮しちまったよー!」


ああ、これはもう…駄目だ。手遅れだ。



「リュゲル兄がな、飯の準備はしてやるから、ちゃんと食えよって!」



それじゃ、まずは何をすればいいんだ?と問いかけてくる真っ白な心の純粋な悪魔は、気を許したままの状態で硬直していた私をベッドに押し倒した。多分、二人の部屋だからこの部屋のベッドは広いんだなあなんて考える。一瞬の母性を捨てきれないままこんな事になってしまったせいで振り払うことも出来やしない。


―――あ、これ、"食べられる"って正解じゃん?



据え膳食わぬは男の恥

(そのまま結局小一時間、見つめ合うだけだった私達のベッドの下から)
(痺れを切らしたリュゲルが飛び出してきてお説教を始めるのはまた別の話)

(無事みんなの所に帰ることが出来た私が、ガンダレスのことを考えているのも別の話!)

(2014/01/06)

攫われお預けをくらいそこから始まるラブコメ連載をやりたかったっていう残滓
苦労するのは主に弟の恋愛成就の為に頑張るリュゲルさんっていうそんなの