オズロックに洗脳される


ビットウェイ・オズロック。

謎の多い私の上司は、何故私なんかを選んで側に置いて、仕事(それもとても些細なことばかりで、誰にでも出来るような。まるで世話係のような仕事ばかり)をさせているんだろう。

考えても謎は深まるばかりだ。イシガシさんに相談してみようかと思ったけれど、彼はいつもどこかに行ってしまっている。見る時は決まってオズロック様に、事細かに何かを相談している。…そもそも私にイシガシさんへ、相談をする勇気があるのかと言われれば無いのだけど。

だって、だって!彼はとても美しくて、気高くて…見つめているだけで心臓が破裂してしまいそうになるのだ。彼を見ているだけで満たされる心は、オズロック様のお世話という不可解な仕事への疑問を、どうでもいいと思っている。


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「名前、だらしない顔をしているぞ」


指摘してやると、地球人のその女はハッとしたように顔に手を触れた。幸せそうに緩んでいた顔が途端にいつもの表情に変わる。…この女を選んだのは"もしも"の時に優秀な子孫を残せそうだと思ったからだが、いつの間にか非常に汚い感情が自分の中にあることに気がついた。

名前がイシガシを見ているのが気に食わない。

私の世話係のくせに、生意気にも、だ。自分の立場を理解していないのが癪に障る。分不相応だしその上、釣り合っていない。頭が悪いのだろうとは思っていたが、ここまでとは思わなかった。イシガシが選んで連れてきたにしては、人選ミスではなかったのだろうか。

とにかく、頭の悪いペットには躾が必要不可欠。私の部屋に呼び出された名前はきょとんとした顔で何かご用でしたでしょうか、なんて聞いてくる。さあて、都合のいいように作り替えようか。きっと目が覚めたら素晴らしい世界が広がっているだろうよと言うと、不安気な顔をしたまま名前はカプセルの中に横たわった。ああ、これで私はイライラせずに済むのだ。まったく、手間をかけさせないで欲しい。


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「あ、イシガシ様。お疲れ様です」


思わず驚いてしまったのだが、性格上表には出なかった。彼女は私のことを"イシガシさん"と呼んでいたはずだ。ええ、と返して気が付いてしまう。彼女の瞳に光が灯っていないことに。

……ああ、なるほど。彼女を気に入ってしまったのかと即座に察することができた。ならば私は主の意思を受け容れるまでだ。それでは、と言って去っていった彼女の目指す先には主がいるのだろう。

思えば彼女を連れてきたことを酷く後悔してばかりだった。それはどうしてかって…分からない。ただ、彼女を見つめていると幸せな気分になれた。心が暖かい何かに満たされるような気がした。でも、私には元々そんなものは必要なかったのだろう。


「さようなら」


心も何もかも壊れてしまった貴方にもう、私の求めるものはないんです。





(2013/12/21)