剣城君に告白してみる


「私にはね、才能がないの」


苗字が俺を呼び出してきた。人気の無い裏庭の一番人の目につかない場所で、開口一番に名前が言い出したのがそんな事だった。才能がないって何が、と問い返すとじろりと睨まれる。「サッカーに決まってるでしょう、剣城君」

さも当然だというように言い切って、開いていた距離を苗字は一歩詰めた。「だからね剣城君、才能をいっぱい持ってる貴方がとても羨ましくてしょうがなくて、負けたくなくて努力を重ねてみるの。でもやっぱり、どうしたって上手くいかない。どうやったら上手くなれるんだろうかって、そんなの分かんないから盗んでやろうってサッカー部の練習を見に行くじゃない?そうしたらね、神童先輩や松風君だって輝いているんだけど、剣城君しか見えないの。最初はね、負けたくないって気持ちから見えてるんだと思ってた。あんなやつ無表情で全然喋らなくてスカしてて、改造制服で校則違反してるただの……ただの、なんだと思ってたんだろ。とにかく、剣城君ばっかり見てるとイライラするのに剣城君をどうしても見ちゃうのね。なんでだろーって思ったらさ、その、ね……うん」


べらべらとよく分からない事をひたすらに述べた苗字は言葉を詰まらせた後、一泊置いて好きです、と呟いた。当然俺は呆気に取られたまましばらく呆然としていたわけだが、言われた言葉の意味を噛み締め咀嚼する頃には頬に熱を感じていた。

普段から一人で空回りをして、やたらと俺に突っかかってくる苗字がいつ俺への興味を失うのかと考えてしまう時があった。その時、決まって寂しくなるのは俺が苗字と同じ気持ちだからだろうか。




(2013/12/21)