泣き叫んで崩れ落ちても戻らない日常を
※死ネタになります
名前の、とても大切な人が亡くなったと聞いた。
彼女は骨を焼く瞬間に、整った顔を酷く歪めた。何日も何日も泣き叫び、酷く自分を責めて夢から覚めたいと、存在しない神様なんてものに懇願していた。俺はそれをただじっと見つめていることしかできなくて、歯がゆい気持ちで一杯だった。
彼女の目の前にはたくさんの手が差し伸べられていた。当然、俺のものだって含まれている。しかしどれも名前の目には映らないようで、色彩を失った瞳は静かに揺れるだけだった。一人、また一人と手を引っ込めてしまった。時間が必要だと剣城は言った。周囲はそれに同意をした。
けれど、俺は手をずっと彼女の前に差し出しているのだ。名前の力になりたくて。名前の助けになりたくて。なのに彼女は俺に気がつかないまま、ただただ泣き叫ぶだけ。何故か俺の名前を何度も何度も呼ぶのだ。『天馬、天馬』と。
――ほら、今だって。
「天馬…!なんで、なんで!どうして?どうして、こんな事に…言いたい事、たくさんあったのに…なんで……なんで、酷い態度ばっかり……神様…神様なんて、いないんだ!神様なんて嫌いだ!あああああああ!あああああああああああっ!天馬、天馬あ…!」
誰か助けて、誰か助けてと何度も何度も叫ぶ。名前以外、誰もいないこの部屋でサッカーボールを抱きしめて泣き叫ぶ。喉が枯れても声が掠れても、ただただ壊れたように泣き続けた。でもどうしてか、名前の目の前でどうしたのと声を掛ける俺には気がついてくれないのだ。
「天馬……ごめんなさい……っ」
何度も繰り返される自分への謝罪。意味が分からなくて首をかしげるばかりで、でも名前の笑顔がとても好きだったからどうしても笑って欲しかった。そういえば…今思い返せば、自分はあまり名前に好かれていないと思っていたんだっけ。
話しかけると顔を強ばらせた。でも俺が誘うとサッカー部のマネージャーになってくれた。サッカーやらないと問うと、運動が苦手だからと断られた。でも傍で見守ってくれてはいたのだ。時折見せる寂しそうな表情がそういえばたまらなく苦手だった。――今の泣き顔はもっと苦手だと、そう思うけれど。でも、俺じゃない人の前だと笑顔になっていたんだっけ。……剣城、とか。葵とか。
(あれ)
俺には笑顔をあまり見せてくれなかった名前。俺が見た名前の笑顔は俺に向けられたものじゃなくて、それを見せつけられたらどうしてか心が傷んだっけ。でもその痛みの原因も何も俺には分からなかった。俺は確かに名前に嫌われてた…と思う。
―――なのにどうして、名前は俺を求めて泣くの?教えてよ、答えてよ。
**
ずっと天馬の事が好きだった。
なのに剣城や狩屋、ほかの男の子の前でなら笑えるのに天馬の前だと緊張して、上手く笑うことが出来なくなった。笑顔を向けられるたびにどきどきと心臓が高鳴って、口から思ってもいない言葉が飛び出した。それでも天馬は優しいから、私を喜ばせてくれようと一生懸命だった。そのうち素直に感情が表せられるようになる、……はずだったのに。
「なんで…いなくなっちゃった、の」
(……いなくなった?)
天馬が葵と笑顔で会話をしている様子を見て、焦って――嫉妬をした。葵のことが好きだったはずなのに、いなければ良かったのになんて思ってしまった。そんな事を考えた自分を自分で責め立てたのだ。悪いのは誰でもない。私自身だ。浅ましい私だ。
ぐるぐると頭が回るような感覚があって、吐き気とめまいに襲われた。多分、私に天馬は相応しくないし天馬は私をただ単純に友達としか見てくれていないことを知っていたから諦めよう、なんて思ってしまったのだ。結果、前を見ずに歩いていた私が大きな音に顔を上げた瞬間には、目の前に大きな鉄の塊が迫っていた。
―――死ぬのだと、本能的に悟った瞬間。
体に衝撃が走って、コンクリートに頬が擦れた。痛くて熱いものが頬を掠り、じわりと血が滲んだのにそんなことが気にならない。声にならない声が出たのだと思う。
最後に見たのはこんな時にまで笑顔の天馬だった。
多分、大丈夫だよ、とか。そんな言葉だった。最後の言葉は、私に向けられた。天馬は私が殺したのだ。好きだと言えないままの、弱くてちっぽけな私が居たがために。
「天馬、天馬…!言わせて、言わせてよ…!」
どんな謝罪の言葉を積み重ねても、罪を帳消しにすることが出来ない。――私は一生、天馬に好きと言えなかった後悔を抱えながら、天馬を殺した罪を抱えたまま、生きていかねばならないのだ。
**
(じゃあ、俺はもう、死んだってこと…?)
泣き叫んで崩れ落ちても戻らない日常を
(2013/12/28)
...DEGOD69
天馬側に恋愛感情は無いため夢主は多分告白してもフラれてた
企画に出そうかなあとか思って書いてたら死ネタになったのでボツになりました残念