メイドレッスン



名前は至って普通の女の子だ。

それに比べてポワイはどう?サザナーラの代表チームのキャプテンで、可愛くて、サッカーも上手くて、何も不自由なんてしていない。平凡のマニュアルのような生き方をしてきた名前とは何もかもが違うの。特別な、選ばれた存在なの。


「だから、こんなのじゃ満足出来ないんだってば」


払い除けたカップがテーブルから落ちて、かしゃんと嫌な音を立てた。ああ、なんて耳障りな音。ポワイの口に合う飲み物一杯、満足に作ることすらできない駄目な子はせめてさっさとそれぐらい片付けちゃいなさいよ。

横目でちらりと名前を仰ぐと、酷く悲しそうな顔をして地に膝を付いて欠片を拾い集める姿が目に入った。ああ、なんて無様なんだろう。あんな風になりたくないなと思い、同時に少しばかり悪いことをしたかなあという気分になり、でも目に入った小さな切り傷から流れる血は見てみぬフリをする。


「作り直して来なさいよ?」
「……はい」


ふと見えたアズルはとても悲しみに染まっていて、それならば何故何度も何度も同じミスを繰り返すのかとふと疑問になった。私はいつも飲んでいるこのフレーバーを自分で淹れた事はないけれど、そんなにも難しいんだろうか。「名前」「な、なんでしょう…?」ポワイ様、と小さく恐るように呟く名前。ああもう、どうしてそんなにオドオドするんだか!見ててイライラする原因はそれなのに。


「難しい?」
「え、」
「これ。淹れるの難しいの?難しくないの?」
「むっ、難しい、です!」
「………じゃあポワイも一緒にやってあげる」
「ひぇえ!?」


かき集めたカップを呆けた声と共に取り落とし、再びばら撒いた名前に前言撤回を試みるが、彼女の傍に見えるアズルがみるみるうちに明るい色になっていくものだから言葉が出なくなってしまっていた。「本当ですか!?」今までに見た事がないぐらいに明るい笑顔でポワイの手を取らんばかりの勢い。思わず一歩下がると慌てたように名前が距離を開けた。すみません、と小さく謝罪の声。けれども頬は緩みっぱなし。

これぐらいの事で喜べるなんて、やっぱり彼女は私とは違う。お気楽な凡人だとチームメイトに評されていた彼女の一面を初めて見た事に気がつくと同時、言い訳のように自らの口から飛び出した言葉は「か、勘違いしないでよね?ポワイ、喉が渇いてるだけだから!」だった。自分で吐き出した言葉の恥ずかしさに自らまで頬に熱を感じている。


そう、単なる気まぐれ。駄目なメイドにすこーしだけ、選ばれた存在っていうのは、なんでも出来ちゃうんだって見せつけるだけなの。……それにね?平凡な存在だって、努力を重ねればポワイ達みたいな存在に近づけるんだって、何かで読んだ気がする。それが本当なら名前にはもう少し頑張って貰って、せめてポワイに相応しいメイドになって貰わなきゃ。じゃないと釣り合わないんだもん。






(2013/11/26)

スパルタ教育なポワイちゃん。我が子を戦塵の谷に突き落とす感じ。可愛い子には旅をさせよ的な…
小ネタでもいいかなあレベルの短さ。キャラ掴めてないです。すいませんでした。

あ、ポワイちゃん絶対お茶とか淹れられなさそう!