転生して猫になりました(GOVer)
※転生するネタ
※ダンボールから出る前までは携帯獣とはた魔と同じ


トラックに跳ね飛ばされたと思ったら、真っ白で何もない世界にいた。「どこよ、ここ」ぽつりと呟いた言葉が空間にこだまする。

周囲には本当になにもなくて、まるでそう、言うなれば某七つの龍の玉を集める漫画に出てくる某お部屋のようだ。真っ白で果てしない空間のなかで色を持っているのは私だけ。気がおかしくなりそうなぐらいに精神に悪い部屋なのに、出口すらわからない。死後の世界ってここでいいの?これならもっとおどろおどろしい地獄でも良かったんじゃないかと考えているとばさばさばさあ!と何かが羽ばたく音が聞こえた。何だこの音。ぼうっと上を見上げると、今度はきらきらと輝く銀色の羽根を携えた光輪を頭に抱いた可愛らしい男の子のような、女の子のような……性別がぱっと見では分からない私よりも年下に見える子が飛び降りてきた。私を見つけて目を見開く彼(彼女?)。


「ごめんなさいごめんなさいごめんなさーいッ!」
「……は?」


飛び降りてきて目を見開いたと思ったら、彼(声の感じからして男の子)は美しいスライディング土下座をキめた。ごんっ、と痛そうな音が響いたのは彼が勢い余って床に頭を打ち付けたせいだろう。「え、ちょ、あの」「ごめんなさいごめんなさいっ!」理由も何も言わずにただただ謝罪を繰り返す少年に、私はドン引きである。「…何で謝るの?というかここどこ?教えてくれないかな」「ごめんなさい!」「謝るより先に説明して!?」「ひいいいいっ!?」あ、怯えた。しかし繰り返されるごめんなさいに正直こちらは埓があかなくて少しイラついたんだ、ごめんね?


**


「…………は?」
「あの、本当になんてお詫びをすればいいのか……」
「ねえ知ってる?謝って済むんなら警察はいらないんだよ」
「それなんて豆しb……すいませんお願いしますその拳を下ろしてください」


最悪

その一言しか出て来ない。目の前の自称天使ことルークによると、彼はまだ見習いなのだそうだ。しかしルークの上司は仕事である魂の整理をルークに任せ、遊びに出てしまったらしい。仕事を押し付けられてしまったルークは最初こそ慎重に魂を判別していたが、長時間仕分けをしていると流石に飽きてきたらしい。それでも書類を見ながら仕事を進め、そして事件は起きた。偶然私の目の前を歩いていた『事故死する運命の人間』と『それを目撃する人間(こちらが私)』を入れ替えて仕分けてしまったのである。事故死する運命ではなかったのに目の前のエセ天使のおかげで私は事故死する運命だった人に変わって事故にあってしまったのだという。ふざけんなと大声でこいつを罵りたい。

間違えたことはすぐに天使の世界に知れ渡り、ルークはかなりの叱責を受けたが死んだ人間は簡単には生き返れない。更に救いのないことに私は即死だったという。ルークの操作のおかげで人間の世界では意識の何もない体に借り物の命の火を入れてなんとか体の鮮度を保っている状態なんだとか。実際は死んでいるけれど、なんとか生かされている状態……らしい。ねえちょっと待って、私まだあのゲーム途中だったんだけど。配管工の兄の方と緑の恐竜を放置してちょっとコンビニに行った帰りだったんだけど。お姫様が待ってるんだけど!?お化けに囚われている弟も氷の王様に囚われているライバル(自称)も助けてないんだけど!吠えてももう何も出来ないのだというが、それでも言わずにはいられない。家族や友人はさぞ驚くだろう。即死って……即死って……!


「で、その……名前さんが生きるはずだった寿命が、まだ残っていまして」
「えっ何、まさか赤ちゃんからやり直せっての!?」
「そそそそそんな滅相も無い!勿論、元の体に戻して差し上げますよ!?」
「じゃあ今すぐ戻しなさい」
「……その、それが出来ないんです。でもあなたにここに終わるまで居てもらうことは出来ないし……それで代わりと言ってはなんですが、あなたが元の体に戻って生き返れる手続きが終わるまで、元いた世界ではなく別の異世界で過ごしてみませんか?ささやかながら、お詫びというか、僕なりの謝礼というか……」
「……手続きってそんなに時間かかるの」
「本来ならば不可能な事を可能にするので、それはもうかなりの時間が必要になります」


でも"やります"ので、とルークは私に告げた。それならばそうして貰うしかない。「異世界で過ごす際には容姿やスペックなどもお好きに出来ますが」「んー、今のままでいいや。その世界に馴染めるのなら」「欲が無いんですね」「下手に人に好かれすぎるのも嫌だし勘違いするのも嫌だもん」何より生きるべき世界が違うし旅行感覚なのだから。「あ、お金とか住む場所は準備してよ?」「当然です!」あ、なんだか楽しみ、かも。少し機嫌の直った私にルークもどこかほっとしているらしい。


「では、どの世界へお出かけになられますか?」
「そうだな――――――……」


告げた行き先に、ルークの目が線になった。「分かりました!ではお送り致しますので、目を閉じて少しお待ちください」素直に目を閉じると、ふわりとした何かに包まれる感覚。「では、3、2、1、」




**








ぱちり、と目が開いた。……どこだ、ここ……?普段感じる"何か"を感じ取れない代わりに強烈な違和感を感じる。とりあえずは体を起こした。がさり、と何かが擦れる音。暖かい、しかし固い何かの中に私はいるようだった。真っ暗で何も見えないくせに、どこか安心感がある。――ここは、どこだろう?本当に願った世界に来れたのだろうか。ルーク、と小さく心の中でだけ呟いてみた。するとどうだろう、ザザ、とノイズのかかったような音が微かに頭に響いた。


『……名前……さん……ごめん……なさ……』
「(なあにルーク、聞こえないんだけど)」
『僕、力……足りな……見習……い……』
「(……なんだろう、この胸に感じるとてつもなく巨大な嫌な予感は)」


これほどまでに嫌な予感を確信に感じたことは多分無い。一体何をやらかしてくれたんだあのエセ天使はとルークを心の中でだけ罵ると、急にノイズのかかった声が遠くなった。え、ちょ、途切れないでよ!?混乱した私に追い討ちをかけるように真っ暗な空間に、一筋の光が差し込んだ。『……あな、た……は……』ちょっとルーク君、私は何!?





「わー!ねえねえ見てよ剣城!猫だ!」
「おい天馬拾うな馬鹿!」
「うわっ、生まれたてみたいだよ!凄く可愛い!」
「こんなところに捨てるなんて……酷い人がいるのね」


眩しい光に包まれたと思ったら、優しく抱き上げられてしまった。まず目に入ったのは茶色いやわらかそうな髪の毛で、くるりとなっている部分がチョココロネみたいだと思……っ、主人公!?天馬君!?え、ちょ、嘘…うわあああ不良だ!?不良だ!?あ、剣城君か。わ、覗き込んできたのはピカチュ…じゃない、信助君だ!その隣には葵ちゃん。「なーにやってんだよ天馬君ー!」「置いてかないでくださいよー!」この声って狩屋と影山君?あー…本当にイナズマの世界に来ちゃったわけ、だけど…



『あな……た……は……猫……に……』


微かに響いた声にもう驚く事はない。うん、私見つめて「猫だ!」って叫んだんだからそうなんじゃないかと思った。すごく思った。一番最初の出会いが一年生というのはとてもラッキーだとは思うけど、猫ってどういうこと!?というか、子猫なの!?鏡準備してくれよ!……じゃない。

おいおい嘘だろ……あのエセ天使本当いつかシめよう。そうしよう。土下座だけじゃ足りないから土下座のまま丸一日過ごしてもらおう。そんな事を決意しながら顔を上げると、頭上では元に戻せだの連れて帰るだのの議論が成されていた。連れて帰ると主張しているらしいのは天馬君と信助君と、それから葵ちゃんと狩屋と影山君……って、ほぼ全員じゃないか。「飼いたい!飼いたいんだよねえ剣城ー!」「だめだ!元の場所に返して来い」「いいじゃん、サッカー部の昔の部室とかでみんなで飼えば」「駄目に決まってるだろ」「剣城のケチ!」「ケチで結構!」……剣城君よ、お前はオカンか。母なのか。雷門の母ポジションを狙っているのか。次世代三国さんなのか。


「にゃあー」
「うわ鳴いた!可愛い!ほら剣城見てよこいつの可愛さ!」
「………だ、駄目だ」


ああ、鳴き声まで完全に猫……静かに涙を流す私を他所に、揺らぐ一年組の母担当。ちなみに『あのー』と声を出したらああなった。そして天馬君よ、抱き上げてくれるのは嬉しいのですけど揺らさないで、ね?ってあああべたべた触らないで!怖いから!……多分、中身は人間なんだけど今の体が子猫だからだろうかな。少しかたかたと震えた私を見かねてか、差し出された手。「お前ら、こいつ怖がってるぞ」暖かい手が私を抱き上げて、優しく頭を撫でてくれた。剣城君あなた……お母さーん!と声を大にして叫びたくなるレベルだこれは。「……剣城、ダンボールに戻せって言ってたよね?」「……………」あ、黙った。子猫(私)の可愛さにやられたようですね剣城君。気持ちは分かるぞ。子猫は本当に可愛い。すごく可愛い。だからしょうがない。


「……天馬、本当にお前の家で飼えないのか?」
「だってサスケがいるし……秋姉とサスケと相談してみなきゃ」
「じゃあ今からみんなで行こうよ!無理だったらこの子、引き取ってくれる人一緒に探そう?」
「賛成ー!」
「いいですね、それ!」
「しょーがないなあ……」


葵ちゃんの提案に、両手を上げて賛成した信助君と影山君、渋々といった風なのに、私(子猫)を見つめる目線は優しい狩屋。相変わらず私を抱き上げたままの剣城君に「僕も抱きたい!」と信助君が飛びついた。


――そんなこんなで、超次元サッカーの世界を猫の姿で過ごす事になりました。


こんにちは異世界



(2013/07/21)

稲妻版。一年生全力贔屓で、未来とかジャパンとも絡ませたい。
剣城君贔屓になりそうなのはご愛嬌。木枯らし荘か、もしくは神童さん家にお持ち帰りされて美味しい御飯とふかふかベッドを提供されるのもいいと思います。

連載したいけど需要とかどこ…