続!怪盗少女の失態


迂闊だった。……と、後悔してももう遅いんだと思う。
だってまさか、こんな事になってしまうなんて!顔を見ないようになるべくひっそりこっそりと、ファーストフード店の座席から立ち上がって"彼ら"の横を通り過ぎる覚悟を決める。何でだ!?エリートじゃなかったのかこの人達!こんな安っぽいファーストフード店に恐ろしい程馴染まないその三人組の服装は王牙学園のもの。ぶっちゃけめちゃくちゃ浮いている。ついでに顔も整いまくっている三人なので周囲の注目も当然だと思う。しかし僕はその三人と面識がある上にバレたら警察行きだ。自分の裏の顔としてやっているのが"怪盗"という特殊な職業だからこそ面識のある人間にバレるのは非常にマズい。本当に。盗品は次の日の朝、郵便で送り届けているけれど。


「ねえねえ、あれ男の子かな?すっごい美人…っ!」
「王牙の制服だよね?めちゃくちゃ格好良い!ああんもう、こっち振り向かないかな!?」


目の前のボックス席に座る女の子の二人組がきゃあきゃあと騒ぐ。三人組のうちの一人の三つ編みの少年(…少女?)を見て騒いでいるようだった。うん、あの綺麗なお顔と三つ編みにはとっても身覚えがある。そしてその隣の銀髪で額に紋章を抱く少年にも、だ。その隣のフェイスペイントの彼には嫌な思い出しかない。そう、胸を揉まれ……ああもう!思い出すな僕!今はここから脱出するのが先だ!
そそくさと荷物をまとめて鞄に突っ込む。不自然に思われない速度など手馴れたものだ。帽子をしっかりと被ってただでさえ少ない髪を帽子に押し込んだ。こうすれば男に見える事を自覚しているからこそ。胸だって…無いし。ちなみに今見つかってしまったら本当にヤバい。鞄の中には次のターゲットの目星をつけるべく色んなお宝の情報を書き込んでいたノートがあるのだ。主に侵入ルートをメインに書き込んでいたブツが。さあ逃げよう!そしてこのハンバーガー屋には二度と来ない!


「きゃあああああ可愛いーっ!ねえねえ君!お姉さん達と遊ばないっ!?」
「ふ、ふぁい!?」


席を立った――瞬間だった。金髪が跳ねる長身のお姉さん二人に行く手を遮られた。思わず素っ頓狂な声を上げると「やだボク天使!」髪の長い方の女の人は完全に僕を男だと勘違いしているらしい。そして大声のおかげで少しばかり注目が集まってしまう。やばいやばい!邪魔しないでお姉さん!


「ちょっとォ、何してんのよ!」
「いいじゃーん!あたし、あっちの子達よりこの子のが好みだもん!」
「ったく、ほんとにショタコンなんだからあ」


えっ!?ショタコンなの!?って髪の短いお姉さんもそんなに嫌じゃなさそ……ってそんな事はどうでもいい!注目集まってるからやめてください!
しかし女だと言えばあの三人に気がつかれてしまいそうで言えない。言えるはずがない。やめてください、と若干溢れる涙をどうにかしたいと思いつつお姉さん二人を見上げたら何故か携帯のカメラを構えられた。うそ、僕写真撮られちゃう―――!?些細な特徴から素性がバレてしまったら今後怪盗なんて出来なくなってしまう。嫌だ!僕は探し出さなきゃならないんだ、あの偽物の―――


「あ゛――――――――――――ッ!!!!!」
「っ、!?」


突如フロア全体に大声が響き渡って、僕もお姉さん二人も反射的にそちらを振り向いた。その横にはなんというか……揉んだ人が、財布を片手に僕を指差していた。なるほど、追加注文に行こうとしてすれ違いざまに振り向いたら捕まえようとした怪盗が写真を撮られそうになっていた、と?今日の僕ってツイてない…!


「おいバダップ!ミストレ!こいつあのかいt」
「黙れ変態フェイスペイント男ッ!」


撤回しよう。この三人に出会ってしまってからツイてないのだ!胸を揉まれた記憶がフラッシュバックして顔が熱くなり、反射的に蹴りを名前も知らない彼の顔に叩き込んでいた。多分、王牙の生徒だから怪我なんて無いと思う。鍛え方が違うだろうし。そして振り向くと銀髪と三つ編みが立っていた。「ビンゴ」と三つ編みの男の子が軽く呟く。逃げようとしたら銀髪の男の子に腕を掴まれていた。


「とりあえず、話を聞かせて貰おうか?」
「ううッ……!」


二人のお姉さんは僕の蹴りを見てドン引いていたらしくそそくさとその場を後にしていた。良かった、写真は撮られなかったみたいだ。さて、ここからどう逃げれば良いんだろう?


続!怪盗少女の失態

(おい待てェ!変態フェイスペイントって何だよ!)
(僕の胸を揉んだくせにっ!)
(っあ、あれは事故だろーがッ!?)
(エスカバ『柔らかかった』とか言ってたよ)
(………ねえちょっと、もう一回ぐらい蹴っていいかな戻ってくるから)
(ああ、好きにしろ)
(バダップ見捨てんな!こいつ結構強―――)

(2013/04/22)