消し去ってしまえば(アスタ)



※フランたちがイナダンで過去に来る前の話 という設定


「……くそ」


名前に嫌われていると感じ始めたのは、あの日から数日経ってからだった。好きな人が居るのかと突拍子も無い事を聞かれ、内心かなり戸惑って素直に名前が好きだと言えず、肯定のみの言葉を告げた。
内心バレやしないかとひやひやしたもののそんな事は無く、安堵と残念な気持ちが一斉に襲いかかってきたのを覚えている。
あの日から名前は俺は勿論フランとサンからも離れ、一人で居る事が多くなった。いや、フランやサンとは普段通りに会話をする。しかし俺が話しかけると気まずそうな顔をして俺から離れていく。

そんな名前に対してフランはかなりの心配を、俺は苛立ちを感じている。サンは何か知っているようだったけれど俺達には何も話さなかった。サッカーボールを蹴り上げる。最大限の力で、名前への言葉にし難い感情を込めて蹴り上げる。

――――それでも、苛立ちは収まらない。


**


アスタの苛立ちが日に日に目に見えるように強くなっているのを感じた。
原因は勿論私がアスタを避けていることだろう。フランにもどうして、と聞かれたけれど私は何も返せなかった。普段通りに喋れたらどんなに良いだろう。一緒にサッカーやろうよ、と言えたらどんなに良いだろう。
実際はアスタとすれ違うだけで捨てきれない感情が過剰に反応してしまう。
だからアスタと対面するとまともに喋る事すら出来ない。ぱくぱく、と口を動かす私は死んだ魚みたいだとサンが言った。


「どうして」


誰も居ない空間に私の声だけが響いた。この声を受け止めたのは目の前のサッカーボールだけ。捨て去ったと思ったこの気持ちは捨てる前より膨らんでいる気がする。
フランと話すだけで多大な罪悪感に胸が締め付けられるのに、それでも気がつけばアスタを追っている自分の目。ダメだ。これじゃダメだ。ちゃんと封をしないと、鍵をかけて沈めてしまわないと。


「私のせいでフランが幸せになれなくなっちゃう…!」


どうして人は恋愛感情なんて抱くのだろう。
フランがずっと四人でいたいと願っているのを一番良く知っているのは私じゃないの?
家族もいない。反物質爆弾の影響で誰もいなくなってしまった世界で、たった四人だけで生きている。私が今生きているのはフランがいるからこそ。フランが私を不要だと感じればすぐに私は消えてしまうのだろう。そうすればもう二度とアスタとは会えなくて―――ってああ、なんて浅ましい女なんだろう私は!結局は自分がアスタと会えなくなるのが嫌なんじゃないか!


『フランのためフランのためだなんていいながら、結局は自分がアスタに拒絶されるのを恐れている』


ただ、それだけの自分が嫌でたまらない。嫌で嫌で吐き気がして口元を抑えた。どうすればいい?――――何を言う。最初から答えは用意されているんだ、簡単じゃないか。

自分の事しか考えられないようなら、戦いを消すなんてきっと成せられない。


「抹消しなきゃ」


足取りは自分でも驚く程にしっかりとしていた。目指すのはフランのいるであろうフラウ・ア・ノートリアスだ。記憶を消してくれ、なんて言ったら彼女はどんな顔をするだろう。きっと出来ない事はない。
記憶操作は難しい超能力だが、フランならきっと余裕だろう。


消し去ってしまえば

(廊下でアスタとすれ違った)
(アスタもサッカーボールを抱えていた)

(久しぶりに、アスタの顔を見て笑顔になれた)


(2013/04/02)

なんかこれ無駄に続いてるぞ どうしよう予想外
五話以上溜まったら中編でまとめるかな…