この想いを風にのせて

※シュウ君構造


他のみんなは船に乗って帰ってしまったけれど、私はゴッドエデンに残る事にした。何故か?それはもちろんシュウがいるからだ。


「本当に良かったの?」
「勿論。だってシュウが好きだもの」
「……僕は応える事が出来ないのに?」
「いいの。ただの自己満足だし、シュウだって一人よりは二人の方がマシでしょう?」


少し悲しそうなシュウに、出来る限りの笑顔で振り向いた。もう割り切っているのだから良いの。彼が私の想いに応えられない理由は、彼がもう死んでしまっているからだ。なんとなくだけど私はそれを直感で悟っていた。
シュウはこの島から離れられない上に、いつかは消えてしまう。だったら少しでも長いあいだ、好きな人と時間を過ごしたい。


「そうだけど、でも君は―――」
「食料ならまだ残ってるし、足りなくなったら買い出しに行くよ」
「………名前が良いのなら」


少し苦しそうな、シュウのその笑顔を見るのはつらい。きっと私は重荷なんだろう。
地面に置いておいたバケツから手で水をすくって小さなお地蔵様を濡らす。ああ、いつまでもこんな時間が続けばいいのに。さわさわと優しい風に木が揺れる音。暖かな木漏れ日。振り返るとシュウがいる。


「ねえ、シュウは何も言わずに消えちゃったりしないよね?」
「………………」
「……ごめん、変な事聞いた。今のなし」


無理矢理笑って黙り込まないでよ、なんて口は動く。けど本当は分かってる。きっといつか、振り返ったらシュウは消えちゃっているのだ。さらさらと、風に紛れて優しい風に乗って消えていく。

―――シュウと一緒に大人になれる未来は無い。だってもう、君の時間は止まってる


「……ごめんね、約束出来なくて」
「いいよ、知ってる」


だから謝らないで、やっぱり約束なんていらないから。
少しでも長くあなたの傍にいられるのならそれでいい。
長ければ長い程反動で辛くなるのだろうけれど、あなたを一人にしたくないの。


「ねえ、今日もサッカーするの?」
「そうだね。足が鈍るのは嫌だし」
「じゃあ私ボール取ってくるね!」
「……うん、待ってる」


ちょっとそこまでボールを取りにいくだけ。それぐらいなら、それぐらいの間なら大丈夫でしょう?数分だけでシュウが消えちゃうなんて……無い……よね?
不安が自分の中で膨れ上がっていく。でも言い出した手前、やっぱり行かないなんて言えなくて。


「す、すぐ戻ってくるから!」
「分かってるって」
「サッカー、まだちゃんとシュウに教わりたい事いっぱいあるんだから」
「もう!名前ったら、じゃあ早くボール取ってきてよ」
「……うん」


シュウの楽しそうな声を久しぶりに聞いた気がした。とん、と押される背中。一度振り返るとひらひらと手を振るシュウ。そうだよね、きっと気のせいだ。
ボールを取りに駆け出す。早く戻らないと安心出来ないのだから、早く―――


「ありがとう、名前」


――――君を愛してるよ、さようなら




この想いを風にのせて

(風が耳をかすめた瞬間)
(ボールを取り落として振り返ると)
(そこに居たはずの場所に、シュウはもういなかった)


(2013/03/02)