イケナイ事はしてません!

「……はあ」
「最近溜め息が多いな、どうしたんだ?」
「疲れが全然取れなくてさ」


かつて雷門と戦うために特訓を行っていた、サッカースタジアムの控え室。
椅子にもたれて机に足を置き、女の子らしからぬ体制で溜め息をついた私に話しかけてきたのはバダップだ。
気心の知れた友人なので、素直に疲れていることを告げた。ここ最近は授業がハード過ぎるのだ。
実技もだが、主に私を苦しめているのは外国語。バダップやミストレ、エスカバほど頭が出来ていないから苦労しているのである。
そのうえ今日は実技のテストのラッシュだった。これから更にサッカーをやろうというバダップたちの体力はどうなっているんだろう。


「きちんと睡眠を取っているのか?」
「疲れすぎてて逆にちゃんと寝れなくて」
「……で、疲れを感じるのは?」
「全部かも。ほら、今日テストだったし。でもやっぱ首と肩が一番きつい」
「ああ。――本当にかなり凝っているな」
「うっ」


椅子の後ろに回り込んで、バダップの手袋をしている指が右肩に触れる。思わず痛みが走って声が漏れた。
そういやひたすら箱持たされて限界になるまで走ったっけ。箱の中には本がぎっしり詰まっていたんだよな。右利きだから右で持ってしまったのだけど、それが肩にかなり来たのだろう。
男子は私達よりも大きな箱を持って走っていたはずだ。確か最後まで残っていたのはバダップ。……本当に鬼だこいつ
首だけ振り返って見上げると普段通り無表情なバダップの顔。つんつん、と彼の指がつつくのは私の首。


「名前、マッサージをしようか?」
「え、いいの!?ってバダップ、マッサージなんて出来るんだ」
「一通りは習得している。――マネージャー業にも影響が出るだろう」
「じゃあお願いしてもいい?」
「ああ、勿論」


バダップのマッサージならお墨付きだろう。そこに横になってくれ、と言われたので机の上に素直に横になった。


**


さあ今日もシュート決めて名前にいいとこ見せるぞ、なんて張り切って控え室に向かう。
バダップ達の教室は授業が早めに切り上げられたらしかった。部室で名前とバダップを二人きりにするなんて危ないから、足は自然に早くなる。
そこの廊下の角を曲がればすぐだ、―――と曲がろうとした時だった。


「……あ、痛いっ…!」
「我慢してくれ」
「や、でも痛いっ、痛……あ、あう」
「痛みだけではないだろう?」
「でも激し、あっ」


……バダップと、名前の声?


「な、なっ!?」

何してるんだあいつらァァァァァ!?
って、はア!?バダップ何名前に手ェ出してんだ!?あいつムッツリスケベなんじゃねーか!『俺は名前に興味などない』とか言ってたくせに!
というか何だよ何名前鳴かせてんの?つか激しいだあ!?おま、おまっ――――……


「バダップまじ何してんのバダップまじ何してんの殺してやろうか」
「いてええええ!お、お前何してくれてんだよミストレ!」


いきなり現れ、あまりのショックに口が塞がらない俺の頭と髪の毛を掴んでバダップへの怨嗟の言葉をぶつぶつと呟くミストレを引き剥がす。
……と、殴られた。何でだ!理不尽だっつーか、お前絶対やつ当たりだろーが!


「声がでかいよエスバカ」
「おい今お前バカっつったか?おい」
「今はキミに構ってる暇はない。……まさか名前がバダップなんかと…!」


何お楽しみしちゃってんの、ぶつぶつ言いつつも乱入する勇気はないらしいミストレ。
で、俺にちらちら目線送ってくるのはアレか?『お前が行け』って事か?ああ?
俺だって行きたくねえよ!という意思を込めてミストレを睨み返す。


「生意気だ!」
「おま、やる気か!?」


足を踏まれたのでミストレの特徴的なおさげを引っ張る。途端に始まる乱闘。だから俺達二人は聞こえていなかった。


「ふああ……気持ち良かったあ」
「体の調子はどうだ?」
「……おおお!すっごい!絶好調だし疲れを全然感じない!」
「良かった」
「ありがとねバダップ、またマッサージお願いしてもいい?」
「ああ、勿論」


―――こんな会話が二人の間で交わされていた、なんて。




イケナイ事はしてません!

(しかし名前、俺以外にマッサージ等頼むなよ)
(へ?何で?)
(………)
(え、バダップ?黙っちゃってどうしたの?)


(理性が保てなくなるあんな声、誰にも聞かせたくないなんて言えない)


(2013/04/02)

診断さんよりお題頂いたのでオーガでやってみた。
マッサージってなんかえr……ごめんなさい何でもないです