ブーゲンビリアと君のキス

「……は?不動?どうしたのその頭」
「名前チャンよ、俺を久しぶりに見て言う最初の一言がそれとか……」
「ふっさふさじゃん!ほー……最近の育毛剤って凄いんだね、あ、もしかしてカツラ?」
「自毛だよ!自毛だっつの!」
「二回も言わなくても分かってるって」
「じゃあその疑いの眼差しをやめろ!……ったく、久しぶりだなオイ」


おう、と返してばしりと不動の肩を叩く。少しばかり緊張していたのを隠すように。中学を卒業してから会ってなかったのだから――実に9年ぶりぐらいの再会だ。
今日呼び出したのは私の方。なんでもヨーロッパから今日本に帰ってきているというので一緒に飲みたいなあと考えついたのだ。
ちなみに鬼道と佐久間にも声をかけたけれど断られた。忙しいらしい。


「それにしても不動がモヒカンじゃないなんてねー…坊主の未来を予想してたのに」
「殴るぞコラ」
「出家しましたー、とか期待してたのになー」
「するか!サッカーから離れるわけ……ねえ……だろ……」
「うわっデレた!?不動がデレた!」
「うるせえ!」


ばしりと頭を叩かれる。レディーに対しての扱いが酷いのは変わらないらしい。
――なんだ、以外に二人でも気まずくて話に詰まる事は無さそうだ。


**


「でさー……サッカー部の監督になったんだけど、今の子凄く口悪くて……おばさんとか……」
「災難だなそりゃ。ところでお前飲みすぎじゃね?」
「えー、まだまだ余裕ですよー……?すいませーん、ビールくださ」
「おい、もうやめとけって。あ、やっぱ要らないんで」
「不動のくせに私の飲酒を邪魔するな」
「何で今のとこだけ真顔だったんだよお前」


不動に店員さんを追い返されてしまったからビールの追加を諦めて、ちまちまと枝豆を指先でいじる。
――正直、お酒の力を借りなきゃ口は閉じっぱなしのまま。
不動はそんなに喋る方じゃない。だったら私が間を繋ぐしかないわけで……第一二人しかいないというのに、私以外の誰がこの気まずい空間を繋いでくれるというのだろう。いや二人だからいける。私ばっかり話すなんてずるいから不動の話も聞き出そう。


「不動は最近何やってるのさ」
「……ああ、フィフスセクターの管理サッカーが無くなったしな、ここしばらくは日本でのんびりしてた」
「あー、そういえばこないだ円堂達と飲んだ時にそんなこと言ってたなー…あのイシドシュウジ?って豪炎寺だったんだっけ?」
「まあな。俺達が調べてたのは組織じゃなく別のことだったが」
「へー、わざわざ日本に帰ってきてたのはそういうことか」
「……俺達の影響が強かっただろ」
「まあ、そうなんだけど」


中学時代。――主にイナズマジャパンの時代を思い出すと、必然的に不動との思い出も蘇ってくる。そう、不動と私はジャパン時代から一年と半年ほど付き合っていたことがあるのだ。まあ私は雷門で不動は帝国。そのおかげで自然消滅したけれど、私は当時かなり引きずっていたっけ。
卒業試合の日、雷門に来ていた不動に避けられまくって私は相当傷ついた記憶があるぞ。
――――結局、今では懐かしい思い出と化してしまったのだけれど。


「……い、おい名前?」
「あ、ごめん。考え事しててぼーっとしてた……」
「だから飲みすぎだっつっただろ。……何考えてたんだよ」
「ほら私、中学の時不動と付き合ってたじゃん?」
「ふぐっ!?――ゲホッゲホッ!?」


不意打ちだったのだろう。飲んでいた焼酎でむせ返ったらしい不動は何気に苦しそうでちょっと面白い。それにしてもふぐって何さふぐって。フグ食べたくなるじゃないか。メニュー表を見ると載っているけれどかなりお高い。うん、やめておこう。


「いきなりおまッ―――何言い出すんだよ!」
「事実じゃないですか明王くーん」


不動が赤くなったのはお酒のせいじゃないだろう。口元が意地悪く釣り上がるのが分かる。……ま、冗談はここまでにしておこう。さっさと本題に入るべきだったなあ
緩んだ口元を真一文字に引き締める。酔いが覚めていく感覚――不動を見据えて、少しだけ口元を緩めた。


「面白いこと教えてあげよーか、不動」
「……何だよ」
「私ね、中学卒業してから誰とも付き合ってないんだぜ」
「――は!?マジかよ」
「マジマジ、これほんと」


不動の驚きは当然だろう。もう24だというのに私は引きずって引きずって、とうとうここまで来てしまった。円堂なんて夏未と結婚してしまったのに、だ。
自虐的な笑みが顔に広がる。不動の唖然とした顔なんてレアだよな。


「でね、今日は不動に言って欲しいことがあるわけ」
「…………」
「卒業試合の時にさ、言って欲しかったんだけどねー…『別れの言葉』」
「…………は?」
「私自然消滅とかさ、スッキリしないから不動からきっぱり振って欲しかったの」


でも不動私避けまくって最終的には勝手にヨーロッパに飛んでっちゃうし、と笑うと気まずそうに目を逸らされる。
これだけ待たされたんだ。もう解放されてもいいだろう。


「何でそこまで……気にする程度じゃねえだろ、すっげえ意地」
「そう笑わないでよね。――ここまで意地を張った理由?」


呆れたような不動ににやりと笑ってみせる。なんだ、案外鈍臭い。
そんなの決まってるじゃないか。今でも不動が活躍した事を記す記事を全部集めていたくらい、


「まだ好きだからに決まってる。本気でずっと好きだったからこそ、きちんと分かれて欲しかったの」
「―――は」
「未練たらしくて気持ち悪いっしょ?ほらさっさと棒読みでいいから言ってよ」


ほら、と不動を急かすのにこいつは口を開かない。何故だ、更にはぐらかすつもりなのかこの男は
どうして私はこんな不動がまだ好きなんだろう?沈黙に耐え切れず枝豆に手を伸ばす。――がしり、


「え、ちょ、何?私は普通に断ってくれればそれで、」
「――ンな可愛くねえ女はお前だけだわ」
「うっ、うるさい!悪かったな女々しくて!」
「ああ。で、さっきの?悪ィけど断る」
「おま……っ、はあ!?おいちょっと、私そろそろ結婚したいんだけど!」
「俺と結婚すりゃいーじゃん」
「…………は?」

「俺も、まだ名前の事好きなんだけど?」


にやりと憎たらしい笑顔でキスをかましてきた不動をとりあえず、後で一発殴る事にする。不動のせいで注目浴びてるんですけれど




ブーゲンビリアと君のキス

(つまりは、ずっと君しか見えてなかったんです)


(2013/03/01)