結果オーライ!


再会は最悪だったと言っていいだろう。


「………………………」
「………………………」


エルドラドの簡易シャワーブースの個室。ドアを開け放った張本人は無表情。ほぼ生まれたままの姿だった私は驚きよりも先に現状が把握できずに硬直。
そして、そのドアを開けた人物を私は知っていた。


「……………女、だったのか?」


直後自分のものとは思えない悲鳴がブースに響き渡った。後に確認したのだが、ブースは男用だったらしい。


**


「…………死にたい」
「えーと、その、………悪ィ何も言えねえわ」


とか言いつつ頭を撫でてくれる狩屋はかなり良い奴だと思う。うん。
ブースの場所を教えてくれた元凶、サカマキさんを睨みつけると目を逸らされた。酷すぎる。ちらりとドアを開け放った張本人の方を見やる。ばっちり目が合う。速攻で逸らした


「あらあ?彼と何かあったんですの、アルファ?」
「………答える必要を感じない」


どうやらその様子をベータに見られていたようで……っておい待て!今"彼"って言った!?


「彼はどうやらシャワーを浴びたらしいね?ふっ、概ね着替えているところに出くわしたというところだろう」
「………………」
「へえ、当たらずとも遠からず……と?男同士で照れるだなんてシャイですねえ」
「僕のように美しいスタイルを保っていれば恥ずかしがる事なんてないだろうに」


………。


「……瞳子姉さんが言ってたんだけど、豆乳で育つらしいぜ」
「毎日飲んでるのに何が悪いんだろ………」
「それもう諦めろって神様が言っぼぐ?!」
「諦めないよ!もっと熱くなるよ!」
「おま、急に顔上げんな!顎打っただろーがっ!?」


もうこれは泣いても良いレベルだ。間違いない、絶対許される。泣いていい。そんなに私には女性的魅力がありませんかそうですか!そりゃ確かに目つきはちょっと鋭い、けど……胸も無いけど……

顎を抑えて悶える狩屋の胸と比べてもほぼ大差ない自分の胸。いや違う、肉質が柔らかいから潰れてるだけなんだよ!だから決して壁ではない。断じて。――と、廊下からぱたぱたと走る音が聞こえてくる。
時計を見るとミーティング開始予定の時間を数十秒切ったところだった。多分恐らくこの足音の主は―――


「遅れてすまな――……狩屋、何故苗字は俺の顔を見た瞬間泣き出したんだ?」
「察してください」
「………ああ、いつものアレか」


いつものアレ!?いつものアレなの!?最早恒例なの!?見上げると苦笑気味の神童先輩と天城先輩の顔。そしてよしよし、と言いながら頭を撫でてくれる手が増える。細い手は神童先輩ので、大きな手は多分天城先輩のだ。
ますます虚しくなるからやめてください、なんて言えない。神童先輩の方が女の子っぽいなんて認めたくない。
しかし気分は少し落ち着いた。そうだよね。いつもの……うん、いつもの事だ!おや?また涙が


「なっさけなーい。男の癖に着替え見られた程度でそんなに落ち込むなんて!」
「オルカ、やめてあげましょう?……ぷぷっ」
「はあ!?おまっ……誰だ!?つーか苗字それ先に言えよ!」


狩屋の口調が怒ったものへと変わる。ついでに頭を叩かれる。痛いなおい
そういえば『男に間違えられてた』としか言ってなかったんだっけ。というか鈍い。さっきの向こうの会話聞いてたよね?
まあ実際は着替えレベルじゃないので自分からは言えない。友人とは言え異性だもの。山菜先輩はまだ来てないし!
けれども純粋に自分のために怒ってくれているのはとても嬉しい。思わず狩屋のジャージの袖を握り締めた。そんな様子を見て流石に変だと思ったのだろう。不審そうな目でこちらを見てくるプロトコルオメガのメンバー。


「そんなに騒ぎ立てる事ではないと思うが」
「………苗字はこう見えて女子だ」
「だド」
「「「「「………は?」」」」」


神童先輩の冷静な声(多少呆れが含まれている)と天城先輩の同調。その時プロトコルオメガに電流が走ったらしい。静かに告げたエイナムの口が、細められていたベータとオルカの目が、閉じられていたガンマの目が思いっきり見開かれる。
プロトコルオメガの面々、私をガン見。目線目線目線。信じられないって呟いたの誰だ
ってそこの女子二人!神童先輩と私を見比べないでくださいお願いします


「後着替えじゃなくて、……シャワー中」
「………」
「マジかよ!?」
「で、誰が犯人なんだ?」


目を逸らすなサカマキさん。大体全部あんたのせいだ間違いなく!流石に私が沈んでいる理由が分かったらしいなエルドラドよ。
ラグナロク前に早速トラブル勃発。キャプテンとして解決をしたいのだろう。静かに問いかけた神童先輩。それに反応し、かたりと小さな音を立てて椅子から立ち上がったのはアルファだ。


「……私だが」
「謝罪は?」
「ノー。まだ告げてはいない」
「謝ってやってくれ。割と繊細なヤツだから」
「………謝るのは構わない、が」


えっ何でそこで黙り込むの?そこ私に謝罪してくれる流れじゃないんですかアルファさん。サカマキさんだって渋々ながらに謝ってくれたというのに…!ちょ、目を逸らすなアルファ!私の乙女心を傷つけておいて!


「女の子の裸を覗いちゃうなんて……これは責任を取らないと、ですね?」
「……ノー、故意に覗いたわけではない」
「でも見てしまったのだろう?ならば責任を取らせるべきだ」
「―――責任?」


ガンマの言葉に思わず反応すると、釣れたなと言わんばかりににやりと笑うガンマ。…これ少し嫌な予感が、


「アルファと一生を共にすればいい」
「いつの時代の考え方!?」


思わず全力でガンマに自分の布製ペンケースを投げつけた。見事クリーンヒット。跳ね返ったそれの動きを目で追いかけると、見事にアルファの手元に落ちたペンケース。

――――アルファとばっちり目が合ってしまう。多分私の顔は今真っ赤だろう。


「…………良いだろう」
「良くないからっ!?」


未来人の感覚おかしい!――…とまあ、これが私とアルファの馴れ初めである。



結果オーライ!

(今思い返すと酷い再会だな)
(言わないでくださいお願いします)
(……まあ、あの時はただ単に照れていただけだったのだが)
(え、そうなの!?てっきり謝るのが嫌なのかと)

(――まあ、嫌だったな)
(待って今私すっごい傷ついたんだけど)
(謝罪が終わればまた、一時的なチームメイトに戻るだけだろう)

(え、それってつまり――……?)



(2013/03/03)

大体サカマキさんのせいだけど大体サカマキさんのおかげ
結果オーライならそれでいいじゃない!