ぷれぜんとふぉーゆー!

「……こ、これは………!」


部活用の雑用品を買って学校へと戻る途中のこと。ショッピングモールの一角、アクセサリーショップにフラフラと吸い寄せられた私。
店頭に並んだ数々のアクセサリーのなかから、手にとった"ソレ"をじっと見つめる。

これ絶対運命だ、買おう


**


「剣城!へいこっち向きなよボーイ!」
「……何ですか先輩」


学校に戻ると丁度メンバーは全員休憩に入っていた。茜に買ってきたものを全て渡してお目当ての人物に声をかける。
呆れたような冷たい目線はいつもの事な剣城。クールな雷門のエースストライカーな彼を見て、やはりと確信する。―――これはやはり運命としか思えない!


「苗字やめろ、その謎ダンスを……剣城が引いてる」
「えっマジ?Waoすまないね剣城、ついテンションが上がっちまって」
「無駄にキレがあるのがムカつくよな」
「よし倉間、お前は後でハイキックの餌食にしてやろう」


そのノリをやめろ、と霧野に脳天からチョップをくらう。痛いわ!しかしその綺麗なお顔に蹴りを入れるわけにはいかないので倉間を狙うことにする。
なんでだよ!とか理不尽だ!とかサイドワインダー!とか聞こえるけど幻聴だろう。
……あ、幻聴じゃなかったサイドワインダー飛んでき、


「何やってんですか二人共!」


私を狙って飛んできたサイドワインダーを、見事間に入って別方向へ蹴り飛ばしてくれたのは剣城だった。え、ちょ、惚れるぞ
あまりの格好良さに思わず不覚にもときめいてしまう。これが乙女心か
そんな私をよそにサイドワインダーを遮られた倉間は不満そうだ。


「剣城!お前はこいつの蹴りの破壊力を知らねえんだよ!女子だけどお前並の脚力だぞ!?」
「でも流石に女子に必殺技は!」
「……蹴り返すから、こいつ」
「あ、うん、まあ私だし?」
「ドヤ顔で言うなっつの!」


剣城が間に入ってこなくても蹴り返せた事は保証しよう


「………はぁ。で、俺に何の用ですか?」


**



「「「プレゼントぉ!?」」」
「え゛っ、何でそんな恐ろしいものを見るような目で私をガン見するんだよみんな」


失礼過ぎるだろ、ってか何故三国先輩たちまで剣城を哀れみの目線で見てるんです?傷つくぞ


「有り得ねえ」
「剣城、……その、どんまい」
「開けた瞬間爆発するんじゃないか」
「むしろ明日は世界が滅亡するかも……」
「茜ェェェェェェ!お前そんな正直に言ったらまた苗字の蹴りが飛ぶぞ!?」


流石に女の子でお友達な茜ちゃんに蹴りを入れたりはしませんよ水鳥ちゃん……
最早怒る気力も湧かない。そりゃ普段はちょっぴり(?)ガサツですけれど。
ここまで低評価だったとは思いもしなかった。やっぱりガラじゃなかったかな?
ちらりと剣城を見やる。俯いて私が手渡した紫色の小袋を見つめる剣城


「え、えーと……いや、見た瞬間剣城に似合いそうだな、って思って」
「……………開けて、いいですか?」
「お、おう!勿論!」


耐え切れなくなって剣城から目を逸らす。勇者だ……って聞こえたぞ!誰だ、速水か!キッと睨むとヒイッ!と声を上げる速水。ビンゴじゃないかちくしょう
そんなに私とプレゼントは似合いませんかそうですか

――――いや、似合わないのは自分が一番分かってるんだけどね。

チャリ、と小さな音が静かなグラウンドに響く。剣城の手のひらに転がったそれ。
パンキッシュながらもシンプルな、ジッパーを模したチャームが動く銀のイヤーカフ。


「や、その……趣味じゃなかったらごめんね?要らなかったら捨てていいし」
「…………」
「押し付けるつもりとかはないけど、その………」


やっぱりガラじゃなかったのかな、プレゼントなんて。いや、そのイヤーカフがとても剣城に似合うと思ったのは確かだ。パンキッシュなアクセサリーが制服に目立つから、きっと似合うな、と。


「………っ」


無言の空間。
剣城は勿論サッカー部のメンバーも誰一人として発言しない沈黙に耐え切れず視線を床の人工芝へと向ける。
そうだよ白状するよ、プレゼントなんて人生初ですよそれが何か!
そりゃあガサツだし体力系だし武闘派だけど、

―――好きなヤツにプレゼントぐらい、送ったっていいじゃない


「………先輩」
「剣城、ごめ―――うぃ!?」
「うぃって何ですかうぃって。もっと可愛い声出しましょうよ」
「いや無茶言うな―――って、」


いたずらっぽくにやりと笑う、剣城の左耳にはきらりと光るイヤーカフ。


「………予想以上に似合っててやばいわ、剣城」
「いや俺こそ予想外でしたよ、先輩がまともな趣味持ってるってとこに」
「誰かバットをお持ちのお客様はいらっしゃいませんか」
「ここはサッカー部ですよ馬鹿なんですか………っ、はは」


小さく笑った後に照れてる先輩可愛い、と耳元で囁く剣城。ぴくりと反応する身体。顔に熱が集まるのが分かる。うわ、待って、ちょ、恥ずかしいんだけど何これ
思わず座り込んで顔を腕と手で覆う。顔から火が出るってこういうことか


「先輩」
「な、なに、ちょ、今話しかけないでやばいから熱いから……!」
「俺、期待してもいいんですよね?」
「へっ、期待?」


自分が真っ赤になっているという事も忘れて顔を上げた。――目の前に剣城の顔


「先輩そんなだから、正直諦めかけてましたけど」
「……あの、剣城、さん?」
「予想外、ってかもう我慢出来ない」
「え、ちょ、やめ―――――!」


必死の抵抗虚しく押し倒される。どんどん近づいてくる剣城の顔に最早私は混乱状態。
視界の端に赤面するみんなが見えた。あのー茜ちゃん?カメラ構えないで?助けて!?




ぷれぜんとふぉーゆー!

(苗字の趣味がまともだった)
(苗字が顔赤くしてるとことか初めて見た)

(いや、それより)

(あいつ普通に女子だったんだな!)
(しかも剣城もあんなの好きだったのかよ!?)
(いや普段はともかく今は可愛いだろあれは)
(むしろ私……押し倒してる剣城君も可愛いと思う……)
(完全にスイッチ入ってるな、あれは)
(よくじょー?してますよあれは!)
(純粋な目であれを見るな信助!)

(つーか止めろ剣城を!おい天馬!)
(………あうあうあうあ)
(……見なかった事にしとこう、頼んだ俺がバカだった)



(2013/01/26)