対応に困るんです

そりゃあ顔は整っていると思う。性格だって多少ナルシストでアルファ様やベータ様とは仲が悪いけれど、私には優しく接してくれる。
けれどやはり、私は彼が苦手だ。常に余裕の笑みを浮かべてほら、こんな風に


「名前、今日の夜は僕の部屋に来ないかい?」
「お断りします!」


まーたやってるわ、とオルカちゃんの声が耳に届いた。じゃあ何故助け舟を出してくれない!目の前でにこにこと笑う我がチームのキャプテンはどうやら私がお気に入りらしくて……このやり取りはもう何度目だろう?多分もう数十回以上は繰り返してると思う。最初こそ私も赤くなったりしたけれど、最近は真顔で流す方が良いのかなとか思い始めているのだ。


「照れているのかな?まったく、僕はやましい事など何一つとして考えてなど」
「夜に部屋に呼び出すって時点で警戒心バリバリなんですけれども私」
「スマート!僕に警戒心なんて抱かないでおくれ、愛しの小鳥」
「………………………」
「おや、今度は本当に照れ―――」
「絶句してるんですよこのアホ上司!」


先程まで眺めていた参考書(数学)を思わず投げつける。顔に熱が集まるのが分かった。いや待て照れる前に何、愛しの小鳥って何!?愛しの小鳥って!小鳥?こと……り……!?どうしてこう簡単に彼は歯の浮くようなセリフを言えるのだろうか。このナルシストめ!


「いーや、どう見ても照れているじゃないか。だろう?アルファ」
「……………」
「ああ失敬、アルファなんかに同意を求めた僕が間違っていたね……名前の赤い顔を堪能するのは僕だけでいいんだよね!」
「堪能しないでくださいお願いだから!」


赤くなってしまった顔を隠したくて、とりあえず現れたアルファ様の背後に隠れる。もう毎回こんなやり取りを繰り返している気がする。何故ガンマ様は飽きないのだろうか。私なんて別段面白みもなんともないだろうし顔だって普通だし胸も……少ないし……


「名前の胸は控えめだからいいんだろう?」
「うわああああ!?な、なっ、セクハラですよガンマ様っ!?」


って今私心読まれた!?読まれたよね!?しかもいきなり目の前にガンマ様の顔。いつの間に移動したんですか!今度はエイナム君の後ろへと逃げる。すると再び追いかけてくる。な、なんなんだ!?なんだか今日はしつこさ普段の三割増しじゃありませんかガンマ様



「積極的だと言ってくれないか?」
「ま、また心読みました!?」
「名前の事をいつも見ているからかな、分かるようになってしまったんだ」
「怖い!ガンマ様怖いです!」
「怖がらなくても良いんだよ、僕の子猫ちゃん?」
「うわあああああ鳥肌があああああああ!」


最早半泣き状態で必死にグラウンドを逃げ回るけれど、私の足じゃあ到底ガンマ様に敵うはずもない。それでもこうなったら半分意地。グラウンドを抜けて廊下に出る。長い廊下を全力ダッシュで駆け抜け――


「その程度で僕から逃げられるとでも?」
「なッ、何で化身アームドしてるんですか!?」
「何って……美しいだろう?」
「理由になってませんってば!」


並走するガンマ様に全力でツッコミを入れるも、まったく聞いてくれやしない。もうこうなったら最後の手段だ。ゆっくりと足を止める。一瞬だけ眉を潜めてガンマ様も立ち止まった。
すう、と息を吸い込む。これを言わねば私は終われない。ずっと逸らし続けていたガンマ様の目を見据えて、言う。


「ガンマ様、私をからかってるだけなんでしょう?――もう、やめてください」


一瞬で硬直するガンマ様。……言った!言い切った!よく言ったぞ自分と褒めてあげたい。何せエルドラドに入って初めて上の人間に拒否を申し出たのだ。何だ言えるじゃないか私。そう、NOと言える勇気も大事なのだ
さあこれでツッコミだらけの毎日におさらばだ、―――なんて思っていたら。


「………名前」
「え?は、……はい……?」
「――――いだ」
「へ?」


肩を震わせ拳を握り締め、……顔を上げたガンマ様は半分涙目。予期せぬ反応に思いっきり目を見開いてしまう。あれ、ちょっと待って?これ傍から見たら私がガンマ様いじめてるみたいな光景じゃ、


「名前なんか、大嫌いだッ!」
「え、えええ!?」


ガンマ様それどういう、と問う暇も与えず廊下を走り去っていくガンマ様。そして取り残された私。
………どうしよう、やっちゃったかもしれない




対応に困るんです

(……え、もしかしてガンマ様本気だった…?)



(2013/02/26)